レオパの飼育面に関わる論文まとめ 2023.10.06更新

管理人の飼育個体(Bold Stripe) - 撮影:Masa

今や爬虫類の入門種としての立場を確立したレオパードゲッコー。

豊富なカラーバリエーションと手軽な飼育難易度から、今日では専門店以外のペットショップにおいてもハムスターの傍らに並べられる程に流通を広めています。

それ故に飼育方法を解説する本やサイトは非常に多く、よく比べてみると正反対の行為を推奨しているケースも見受けられるようになりました。

これは本種の大きな魅力の一つである丈夫さにも起因し、最低限の飼育さえ行っていれば何をしてもそうそう死なないという側面が、誤った飼育方法を見えにくくしています。


今回の記事ではレオパードゲッコーの飼育面に関わるような論文を列挙し、本種の飼育の参考となるある程度信用度の高い情報を広める事が目的です。

掲載外にも読みかけの論文が沢山あるので、なるほどなぁと思った論文は随時追加予定です。

以下の情報がヒントとなり、より良い飼育方法の模索に繋がれば幸いです。


GROWTH RATE VARIATION IN CAPTIVE SPECIES: THE CASE OF
LEOPARD GECKOS, EUBLEPHARIS MACULARIUS

飼育下におけるレオパの、エサ種による成長差についての論文です。

論文内ではベビーの成長差を比較しており、ミルワームのみのグループ、イエコオロギのみのグループ、ミルワームとイエコオロギの両方を与えたグループの3グループに分けて飼育を行った結果が記録されています。

意外な事に、国内では評価の低いミルワームが最も成長に効果的であるというデータが得られています。これは論文内にて詳細に解説が行われますが、成長期のレオパに対してはミルワームの高い脂肪含有量がプラスに働き、コオロギよりも優れた飼料であるという事が証明されています。

尚、この実験においてコオロギ及びミルワームはきちんとダスティングが行われていた事が明記されています。

あくまでも上記は本論文についての簡素な紹介文と個人の感想であり、実際の飼育に反映する前に必ず原文に目を通すようにお願いします。


Digestibility of black soldier fly larvae (Hermetia illucens) fed to leopard geckos (Eublepharis macularius)

レオパにおける、アメリカミズアブ(フェニックスワーム)の消化率に関する論文です。

論文ではグラブパイ等の人工飼料の原料として用いられる機会も多いアメリカミズアブの幼虫について、過去の研究からカルシウムの消化率が悪い点と脂溶性ビタミン(A, D3, E)が不足している点についての懸念が示されています。

実験の結果、懸念されていた通りアメリカミズアブの幼虫はカルシウムの消化率が悪い点が示され、同時にタンパク質とナトリウムが不足した飼料である事が示されています。

アメリカミズアブの幼虫を与える事でレオパが引き起こす下痢症状について、何らかの形で幼虫が腸に刺激を与えていると考えられてきましたが、実際には低ナトリウム血症による症状ではないか?という可能性についても論じられています。

国内ではアメリカミズアブの幼虫は殆ど人工飼料等の加工品へと姿を変えて栄養調整がされおり、純粋なアメリカミズアブを与える機会は少ないですが、元々加工向きの飼料なのかも知れませんね。

あくまでも上記は本論文についての簡素な紹介文と個人の感想であり、実際の飼育に反映する前に必ず原文に目を通すようにお願いします。


Evaluation of β- carotene assimilation in leopard geckos (Eublepharis macularius)

βカロテンとビタミンAを用いた、レオパにおけるビタミンAの貯蔵機能に関する論文です。

論文内では爬虫類全体におけるビタミンA不足により引き起こされる扁平上皮化生が多数報告される中、ビタミンA必要量については殆ど判明していない事が触れられています。

この論文ではβカロテン(体内でビタミンAへと変化します)を与えたグループとビタミンAを与えたグループで貯蔵機能の比較実験を行い、βカロテンを与える事でより多くのビタミンAを肝臓内に貯蔵出来る事が証明されています。

国内では脂溶性ビタミン(主にビタミンD)がビタミン中毒というワードから過剰投与が忌避されがちですが、本論文内ではビタミンAについて以下のように記述されています。

"脂溶性ビタミンであるビタミンAは上皮の健康に役立ち、視力、成長、生殖、免疫機能など多くの生物学的プロセスに不可欠なビタミンである。"

βカロテンはレオパを飼育する中で意識せずに摂取させる事は難しい栄養素であると考えられますので、既存のサプリメント類(論文内では人参ジュースを用いています)を用いて、与えてみるのも良いのかも知れません。

あくまでも上記は本論文についての簡素な紹介文と個人の感想であり、実際の飼育に反映する前に必ず原文に目を通すようにお願いします。


The nocturnal leopard gecko (Eublepharis macularius) uses UVb radiation for vitamin D3 synthesis

レオパにおける、UVBを照射した個体と照射しなかった個体の成長差を比較した論文です。

ビタミンDは動物にとってカルシウムとリンの調節に関わる重要な脂溶性ビタミンであり、UVBを浴びる事によって合成される事が知られてます。

この論文では生後6ヵ月までのレオパに対し、UVBを照射したグループと照射しなかったグループで成長率の比較実験を行い、結果として成長差は認められず、ビタミンDは食事による摂取のみでも十分に補う事が可能であると示されています。

近年、夜行性動物における紫外線の必要性について話題になる機会が多いですが、ことレオパにおいては必須条件ではない事がこの論文から伺えますね。

あくまでも上記は本論文についての簡素な紹介文と個人の感想であり、実際の飼育に反映する前に必ず原文に目を通すようにお願いします。


Effect of Dietary Whey Protein Supplementation on Growth of Eublapharis macularis (Leopard Geckos)

レオパにおける、ホエイプロテインの効果に関する論文です。

論文内では12週齢のレオパに対して23日間ホエイプロテインを投与した結果が記され、体重の増加が認められた事が示されています。

ホエイプロテインはクレステッドゲッコー用の人工飼料として有名な「PANGEA」の原料として用いられますが、レオパードゲッコー用の人工飼料においては馴染みのない原料です。

レオパードゲッコー用の人工飼料の方向性は、なるべく不純物が少なく「乾燥昆虫粉末+ゲル化剤+カルシウム」のような構成が好まれる傾向にありますが、この論文や他種における人工飼料の状況を考えるとホエイプロテインも十分に効果がある原料なのかも知れませんね。

個人が飼育を行う中で役に立つ情報ではありませんが、今後ホエイプロテインを含むような人工飼料が販売された時、毛嫌いする必要もないと考えます。

あくまでも上記は本論文についての簡素な紹介文と個人の感想であり、実際の飼育に反映する前に必ず原文に目を通すようにお願いします。

(この論文、先日まで全文が読める場所があったのですが、今回紹介しようと改めて探した所見失ってしまいました。誰か見つけたら教えて下さい。)


Plasticity of thermoregulatory behavior in leopard geckos (Eublepharis macularius, Blyth 1954)

レオパにおける、体温調節と行動に関する論文です。

この論文では「夜行性のトカゲは昼に暖かい場所で身を隠し、蓄積した熱を利用して夜間に活動を行う」という研究から、レオパの活動条件もまた昼夜に依存するのではなく、温度にも依存しているのではないか?という仮説の実証を行っています。

論文内では「隠れる事の出来るシェルターはあるが、寒い場所」と「暖かいが、隠れる事が出来ない場所」が用意され、安全な場所であるはずのシェルターから、危険な場所である開けた場所へ温度を得る事を目的として移動する様子が記録されます。

又、湿度がシェルターの嗜好性に影響を与える事も示されています。

空間保温は勿論、その上でパネルヒーター等を用いてホットスポットのような場所を作る飼育方法は一般的です。

そのパネルヒーターを敷く場所については、どの場所がベストであるのかという議論がよく発生します。シェルター内で生活する時間が長い事からその真下に設置するケースも多く見受けられますが、この論文からはレオパ自身が暖かい場所と寒い場所を理解して行動している事が分かりますね。

あくまでも上記は本論文についての簡素な紹介文と個人の感想であり、実際の飼育に反映する前に必ず原文に目を通すようにお願いします。


On the role of melanistic coloration on thermoregulation in the crepuscular gecko Eublepharis macularius

レオパにおける、メラニスティック表現と体温調節の関係性に関する論文です。

前述した論文で体温の話に触れていたので、流れでこちらの論文も紹介をしておきます。

論文の結論から触れると「メラニスティック表現は、体温調節に使用されない」とされます。

又、論文内ではレオパの生理的な色彩変化がオーバーヒートを防ぐ為に行われている可能性が示唆されます。

経験則的に高温で管理したレオパが明るく、低温で管理したレオパが暗くなる事は分かっていましたが、この研究の結果がエビデンスの一つとなる事でしょう。

あくまでも上記は本論文についての簡素な紹介文と個人の感想であり、実際の飼育に反映する前に必ず原文に目を通すようにお願いします。


A remarkable case of cannibalism in juvenile leopard geckos, Eublepharis macularius (Blyth, 1854) (Squamata: Eublepharidae)

レオパにおける、共食いの報告です。

幼体での報告ではありますが、自分と殆ど変わらない大きさの個体を丸呑みしている様子が記録されています。

レオパが多頭飼育されるケースは珍しくありませんが、このような報告からも望ましくない状態である事は明らかであると言えるでしょう。

あくまでも上記は本論文についての簡素な紹介文と個人の感想であり、実際の飼育に反映する前に必ず原文に目を通すようにお願いします。


Tooth Removal in the Leopard Gecko and the de novo Formation of Replacement Teeth

レオパにおける、歯列の再生とメカニズムに関する論文です。

この論文では、上皮性細胞の存在により多くの爬虫類が、生涯にわたり継続的には歯が生え変わる事に着目しています。

その為にレオパを用いて歯列の回復の様子を観察し、上皮幹細胞が新しい歯のエナメル質に複数の細胞を生み出すかどうかを検証しています。

レオパの歯の論文というよりは、爬虫類における歯列の再生メカニズムの研究の為にレオパを用いているという論文であり、内容は専門用語で溢れています。

論文内の検証で、欠損した歯列は1ヵ月程で再形成が始まり、2~3ヵ月までに殆ど再生する様子が記録されています。

長期的にレオパを飼育する中で、外傷や疾患等で部分的に歯が欠損する機会は珍しくありません。 なんとなく歯が再生している事は経験則的に知られますが、この観察結果が一つのエビデンスとなる事は確かでしょう。

あくまでも上記は本論文についての簡素な紹介文と個人の感想であり、実際の飼育に反映する前に必ず原文に目を通すようにお願いします。


[最後に]

準備中…

管理人の飼育個体(Bold Stripe) - 撮影:Masa

どうも、最近は既存記事の追記や修正ばかりで新規記事は久々でした。

と言っても只の論文の羅列ですが…(笑)

レオパードゲッコーに限らず、長く動物を飼育する上で多くの発見があります。

そういった発見が積み重なる事でより適切な飼育方法へ繋がるというメリットがある一方で、自分が専門家になってしまったような、そんな傲りを持ってしまうデメリットがあるのも事実です。

これは自戒でもありますが、なんとなく飼育にこなれてしまい、スタンダード外の手法を試す事に対しての抵抗感が無くなる事もまた、この一環と言えるでしょう。

余計な事をせずとも、レオパはコオロギとカルシウムと水と環境さえ与えれば、十分に生きながらえる事が可能なのです。


卑下するのではなく、私たちはあくまでも趣味人であり専門家ではないという意識をしっかりと持ち、行動に対しての根拠を十分に考える必要があります。

「今までコオロギだけで問題なく生きてきた個体に、どうしてミルワームを与えるのか?」

「今までカルシウムのダスティングだけで問題なく生きてきた個体に、どうして別のサプリメント類を与えるのか?」

etc...


その根拠が科学的か経験則的かは別としても、そもそもの根拠の説明も出来ないような行動はより良い飼育方法の模索というよりは、スタンダードな飼育の繰り返しに飽きただけとも言えます。

かと言って、手堅くなり過ぎて今の飼育方法に何も疑問覚えないという事もまた適切ではなく、何が正解なの?という話になりますが(笑)

無鉄砲なチャレンジの先ではなく、自らの飼育方法を疑い続けた先にこそ、より良い飼育方法が存在するのだと考えます。