世界中で繁殖が行われ、新たな表現が誕生し続けるレオパードゲッコー。
そのような新たな表現の中には、様々な理由で固定が進まなかったケースが多く存在します。
尚、今回は五十音順ではなく、私の独断と偏見で紹介をしています。
●ラベンダー/Lavender
Geckos Etc. Herpetocultureより出典 - 2019年のEublepharis macularius montanusの個体
「新規性のある表現」と銘打ち、記事の一番最初で紹介する表現は何が良いのか?
本記事を書く上で一番悩んだと言っても過言ではないのですが、まずは
「ラベンダー」
を紹介していこうと思います。
ラベンダー表現自体は、元来ヒョウモントカゲモドキに存在する表現です。
上の写真の個体で言うと、バンド部分の表現を指します。
ラベンダーというよりはグレー?青白い?という方が正しいような気もしますが、この色合いをラベンダーと呼ぶのは本種における習わしのようなものです。
Luxurious Leopardsより出典 - 2012年のLavender Bell Albinoの個体(Bright Albinoによる販売個体)
このラベンダー表現を全身に広げ、安定して遺伝させようとする試行について、多くのブリーダーが挑み続けてきましたが、現在までに完成は見せていません。
確認出来る中で最も古い試行としては、Bright AlbinoによるLavender Bell Albinos (Blue Bell project)と思われ、2007年頃には既にライン化されていた様子が確認出来ます。
本種はアルビノ化することで、幼体時特有のバンド表現が残りやすくなる傾向にある為、その傾向を利用した方向性と言えます。
The Gecko Galleryより出典 - 2012年のBold Snow Lavender stripeの個体
アルビノ化せずに、ラベンダー表現を制御しようという試行も当然存在します。
実績を残したラインとしてはThe Gecko GalleryによるLavender Boldが有名でしょうか?
このラインに限らず、ボールドを用いる事である程度ラベンダー表現の面積を確保する事が可能であると判明しており、多くのブリーダーにより試行されています。
この方向性の弱点としては、成長や加齢に伴いラベンダー表現をしている箇所が黄色に侵食されてしまう点です。
Ultimate Geckosより出典 - 2018年のLavender Stripe Snow Eclipseの個体
そうした弱点への対策…と言えるかは悩み所ですが、スノーやエクリプス等の色素減退効果を持つベースモルフを組み込む事で、黄色化を防ぐ場合もあります。
やや白化しすぎるのが弱点でしょうか?
Eco Geckosより出典 - 2021年のMack Snow Het Blizzard, Eclipseの個体
勿論、それでも上手くバランスをとった、突出して美しい表現の個体は存在します。
成長後もこの表現が維持されるのか?安定して遺伝するのか?そうした現実的な課題は残りますが、方向性の一つとしては十分に"アリ"であると言えるでしょう。
Geckos Etc. Herpetocultureより出典 - 2019年のLavender Stripeの個体
Geckos Etc. Herpetocultureが販売するLavender Stripeは、成長後も安定してラベンダー表現を維持する事で知られています。
ここまで紹介したいずれのラインについても、ラベンダー表現を全身に広げる事は難しいという課題を抱えています。
Xtreme Exoticsより出典 - 2022年のLava Black Nightの個体
Sff geckoより出典 - 2022年のSunstoneの個体
表現が進む度に課題が浮かんでいたラベンダー表現ですが、近年変わったアプローチで急速に完成へと近づきつつあります。
上の写真は、Xtreme ExoticsによるLava Black Nightと、Sff geckoによるSunstoneです。
表現のロジックとしては、メラニスティックをアルビノ化し、ブラウンアウトを防いだ形になります。
頭から尾まで全身をソリッドカラーに出来るメラニスティック表現をベースに用いている事から、これまで存在したラベンダー表現の面積の課題も無く、これまでのどの試行よりも完成に近いと考えられます。
Darling Geckosより出典 - 2021年のBlack Night Raptorの個体
ちなみに、同じロジックでもブラウンアウトをさせる方向の選別交配ではこのような表現となり全く趣が異なりますね。
これはこれで新規性のある表現ですので、別項で解説します。
ここまでに紹介したライン群は、いずれも明確な血縁関係がありません。
異なるブリーダーたちが、異なるアプローチから、未だ完成しない"ラベンダー"を目指しているのです。
そして20年近い歳月を経て、このラベンダーが遂に完成しようとしている光景に、熱い何かを感じるのは私だけでしょうか?
この感情を無理に言語化するとチープになってしまいそうで、いつもどう口に出せば良いのか迷うのですが…これぞ本種の魅力の根幹と言いますか。
これこそが"ロマン"であると考えています。
以上、ラベンダーについて
●マーフィパターンレス+α/MurphyPatternless+α
Golden Gate Geckosより出典 - 2003年のGGG line Murphy Patternlessの個体
"ロマン"の話をした流れで、同じく20年以上の歳月をかけて完成しようとしているマーフィパターンレス+αの表現についても紹介していきます。
本種において、ベースモルフの表現を選別交配によって変えてしまおうという試行は少なくありませんが、ことマーフィーパターンレスはその歴史の長さも、表現の変化度も他のベースモルフとは一線を画しています。
David Nieves氏より出典 - 1998年のMurphy Patternlessの個体
確認出来た試行の中で最も古いものは、David Nieves氏による1998年の試行です。
上の写真の個体は全てマーフィーパターンレスであり、メラニスティック化を目指した個体(上)、タンジェリン化を目指した個体(中央)、白化を目指した個体(下)と並べられています。
この写真からは、現在も続く選別交配の方向性そのものを読み取る事ができ(白化はブリザードやスノーの登場で途絶えました)、非常に長い間多くのブリーダーが夢見た表現であると言えます。
ちなみに「これって新規性ある?」と思われる方もいらっしゃると思いますので、念の為解説しますが、当時はまともなメラニスティック表現が存在せず、スーパーハイポタンジェリンも殆ど流通していませんでした。
そのような条件下で、到達出来るか分かりもしない表現を目指したDavid Nieves氏の熱意には敬意を払うべきでしょう。
・タンジェリンマーフィーパターンレス
GeckoBoaより出典 - 2016年のTangerine Murphy Patternlessの個体
どれだけ美しく見えるSHTCTであっても、加齢に応じて顎や尾、指先にはピグメントが発生します。
ところが、マーフィーパターンレスをタンジェリン化する事で、完全にピグメントの存在しないSHTCTという固有の表現にたどり着く事が出来ます。
この方向性として最も実績を残したラインは、Golden Gate GeckosによるGGG line Murphy Patternless(本項冒頭の写真)でしょう。
実際に、多くの後続ラインへと組み込まれた様子が確認出来ます。
しかしながら、一定のタンジェリン化が進んだ後、表現の進歩は停滞しました。
更にキャロットテール化については20~30%程に留まり、いずれもSHTCTとは呼べないような表現でした。
JEWEL GECKOSより出典 - 2022年のRainSunglow Murphy Patternlessの個体
ところが近年、加速度的にこの試行は完成に向かいつつあります。
上の写真は、JEWEL GECKOSによるRainSunglow Murphy Patternlessです。
更にレインウォーターアルビノが加えられた形で、選別交配が行われています。
…完成に向かいつつある、と言うよりこの試行は既に完成した。と言っても過言ではないような完璧な表現をしているように感じます。
強いてこの方向性に未完の部分があるとすれば、まだノンアルビノの個体で同様の表現が存在しない点でしょうか?
・メラニスティックマーフィーパターンレス
GeckoBoaより出典 - 2016年のBlack Murphy Patternlessの個体
マーフィーパターンレスをメラニスティック化する事で、固有と言える表現は現在は存在しません。
前述の通り、まともなメラニスティックが存在しなかった当時に、それでも存在したいくつかのメラニスティックにおける共通の課題はソリッドカラー化が上手くいかない事でした。
そのような時代背景に当てはめてみると、ソリッドカラーのメラニスティックという固有の表現が目指せる方向性であったと言えます。
GeckoBoaより出典 - 2019年のMelanistic Murphy Patternlessの個体
ブラックナイトが完成し流通が広がる中で、表現の固有性は失われ、この方向性は徐々に衰退しつつあります。
それでもGeckoBoaによって選別交配は続けられており、順調にメラニスティック化が進んでいる様子が伺えます。
こんな事を言い出してしまうとこの記事の趣旨そのものを否定してしまいそうですが、好きでやっている事なので、目指す表現に新規性が無いからと言ってやめなければならないなんて事はありません。
以上、マーフィーパターンレス+αについて
●ブリザード+α/Blizzard+α
Nick Stark氏より出典 - 2011年のSunsetの個体
マーフィーパターンレス+αを紹介した以上、ブリザード+αの紹介も外すことは出来ません。
基本的な表現の目的は変わらず、使用されるベースモルフがマーフィーパターンレスであるか、ブリザードであるかの違いです。
現状までに差別化は出来ていないと言って問題はないでしょう。
・タンジェリンブリザード
GeckoBoaより出典 - 2016年のSunrise Gecko Genetics Crossの個体
ブリザードも同様に、タンジェリン化する事で完全にピグメントの存在しないSHTCTという固有の表現にたどり着く事が出来ます。
この方向性として最も実績を残したラインは、Nick Stark氏によるSunset及びSunriseでしょう。
実際に、多くの後続ラインへ組み込まれた様子が確認出来ます。
MP同様に一定のタンジェリン化が進んだ後、表現の進歩は停滞しました。
更にキャロットテール化については殆ど進まず、いずれもSHTCTとは呼べないような表現でした。
Edwin氏(HN)より出典 - 2021年のBell Albino Blizzardの個体
近年では、まだまだ少数ながら突出して美しい表現をした個体が報告されるようになりました。
そもそもタンジェリンマーフィーパターンレスと比べ、タンジェリンブリザードは選別交配に取り組むブリーダーの数が少なく、この試行が近年中に完成するとは考えにくい状況にあります。
それでも少しずつ進歩している表現である事は確実であり、いずれどこかで遺伝性のあるラインが作出されると考えられます。
・メラニスティックブリザード
Leopard Gecko Empire Rizalより出展 - 2022年のBlack Night Blizzardの個体
表現の固有性云々については、マーフィーパターンレスから繰り返しとなるので割愛します。
ブリザードをメラニスティック化すると言えば、もう懐かしい呼称ではありますが"ミッドナイトブリザード"を思い出す方も少なくないのではないでしょうか?
それらの一部には興味深い表現をした個体が居たことは確かですが、実態としてはストレスを与えることで色素の沈着を行う後天的な表現であり、遺伝性はありませんでした。
近年ではブラックナイトを用いた遺伝性のあるメラニスティックブリザードの作出が試みられており、少数ながら突出して美しい表現をした個体が報告されるようになっています。
タンジェリンブリザード同様、どうしても選別交配に取り組むブリーダーの数は少ない状況にありますが、どこかで遺伝性のあるラインが作出されることは間違いないでしょう。
以上、ブリザード+αについて
●パイド/Pied
Royal Varanより出典 - 2017年のTotal Eclipse Piedの個体
回顧録のような内容が続いてしまったので、きちんと新規性の高い表現を紹介していきます。
近年、本種でもパイドの呼称は多く見かけるようになりましたが、ベースモルフとしてのパイド表現は依然として存在しません。
現在パイドとして流通する表現は、エクリプスとスーパーマックスノーの付随的なパイド効果を、選別交配により増幅させた状態である場合が殆どです。
GECKOSPOTより出展 - 2022年のSuper Extreme Pied Galaxyの個体
その為、当初はこのような個体を"パイド"と呼称するのは不適当であるとするブリーダーもそれなりに居ました。
理由の一つとして、当時の認識としては両モルフが与えるパイド効果は鼻先と首元、手足に限られるとされており、それ以上の増幅は難しいと考えられていたからです。
しかしながら、選別交配が進む中で上の写真のような個体も報告されるようになり、エクリプスとスーパーマックスノーの選別の延長線にはパイド表現が存在する事は認めざるを得ないと言えるでしょう。
これ自体は先人達の努力の結晶でありとても興味深い話ではあるのですが、今回はせっかくなので異なるパイド表現を優先して紹介を行っていきます。
HK Geckosより出典 - "Inverse"と名付けられた個体
本種において最も有名なパイドと言えば、やはり"Inverse"でしょう。
今でこそトータルエクリプスパイドを見かける機会が増え、アルビノではない個体が白く色抜けている=パイド表現は見慣れたものとなりましたが、そうした個体が殆ど存在しなかった当時において、この"Inverse"の表現はあまりに衝撃的でした。
比喩表現ではなく世界中のブリーダーが遺伝性を期待した表現でしたが、残念ながら遺伝性はありませんでした。
"Inverse"は本種に存在するパラドックスの1体として記録されます。
Millier Wang氏より出典 - 2018年の個体
残念ながらInverseに遺伝性はありませんでしたが、近年Millier Wang氏によって同様のパイド表現をした個体が報告されました。
遺伝性については現在検証の最中でありますが、その結果がどうあれ「バンド状のパイド表現」は本種において2度、3体報告された事となります。
仮にこの個体群にも遺伝性が無かったとしても、またいずれどこかで発生する表現であると考えられ、いつの日かベースモルフに加わると考えるのは自然な事ではないでしょうか?
Chihsiang Wu氏より出典 - 2019年のBell Albino Eclipse W&Yの個体
異質なパイドとして、表現が全身に及ぶ個体がChihsiang Wu氏によって報告されます。
冒頭で触れたエクリプス+スーパーマックスノーで作るパイドとは表現のロジックが異なり、この個体はエクリプス+W&Y+ベルアルビノによってパイド表現が作られています。
確かにW&Yにはある程度の白化効果がある事は知られますが、あくまでもハイポ化やホワイトサイドに収まる程度であり、パイド化まで至った個体を知りません。
パイド表現を持つようなW&Yなのか?
エクリプスのみでここまでのパイド表現を作ったのか?
エクリプス+W&Yの選別によって得られるパイド表現なのか?
はたまた異なるナニカを含んで作られた表現なのか?
この個体群に興味は尽きず、今後の報告が待たれるばかりです。
DC Geckosより出典 - 2015年のPied Sunfire Radarの個体
ちなみにDC GeckosによるSunfire Radarでは、エクリプス+ベルアルビノによって成長後もパイド表現が維持されています。
この他にも冒頭のトータルエクリプスパイドが出現するような血統の中で生まれた、マックスノーエクリプスには成長後もパイド表現が維持される個体がいる事から、エクリプスに付随したパイド表現を増幅するだけでも十分にパイド表現を作る事は可能になりつつあると言えます。
これまでの考え方としては、成長後も安定してパイド表現を得るにはエクリプスとスーパーマックスノーのベースモルフは必須であると言う流れがありましたが、こうした変化をみるに数年後には古い考え方になっているのかも知れません。
余談ではありますが、こうしたベースモルフを選別交配的に制御する事で新たな表現を抽出しようとする試みは、そもそも目的となる表現のベースモルフが存在しないからこそ発展していきます。
つまり、"パイド"なるベースモルフが誕生してしまえば途絶える方向性である事は殆ど確実である為、私自身パイドを切望する一人ではありますが、もう少し登場は遅くてもいいとも思ってしまいます(笑)
以上、パイドについて
●スケールレス/Scaleless
Milena geckos & snakesより出典 - 2015年のScalelessの個体
パイドに続いて、本種で固定が進んでいない表現と言えばスケールレスでしょう。
報告数は多いものの、悉く遺伝性がないものばかりで、いずれも一代限りのパラドックスとして扱われる場合が殆どです。
その中でもMilena geckos(現在はMilena geckos & snakes)により報告された個体は、全身が美しいスケールレス表現をしておりとても印象的でした。
Marco Struck氏より出典 - 2016年のScaleless Headの個体
意外かも知れませんが、部分的にスケールレス表現をする個体の報告は多い傾向にあります。
このような個体の多くは、頭部から首元、顎下にかけてスケールレス表現をしています。
私自身ハッチした経験もありますし、注意深く探しているとショップにちょこちょこ入荷しています。
BC-reptiles Eublepharisより出典 - 2021年の個体
ランダムに現れては消え、固定化されずにきたスケールレス表現ですが、近年BC-reptiles Eublepharisにより、ついにベースモルフとしてのスケールレス表現が報告されました。
呼称は絹を意味する"Satin"で、潜性遺伝の形式をとります。
表現の範囲も部分的ではなく、全身がスケールレスとなるタイプです。
BC-reptiles Eublepharisより出典 - 2021年の個体
拡大すると分かりやすいですね。
どうしても好き嫌いが分かれやすいスケールレス表現ですが、私個人としては好みな表現です。
以上、スケールレスについて
●アイミューテーション/Eye mutation
mutant reptilesより出典 - 2022年のBAE Fascio 66% het Rainwater albinoの個体
続いては、本種と切り離せない関係にあるEye mutationです。
本種において最も発生頻度の多い変異とは何か?と聞かれれば、それは間違いなくEye mutationでしょう。
前述したパイドやスケールレスに悉く遺伝性がなかった一方で、Eye mutationには悉く遺伝性があったと言えます。
既に途絶えたものも含めれば、二桁は存在しています。
しかしながら、その表現はいずれもEye mutationの代表であるエクリプスと大差ない場合が殆どです。
言い方は悪いかもしれませんが、表現の新規性は乏しい互換性が無いベースモルフが増えるばかりの状況です。
本項ではそのようなEye mutationの中で、新規性のある表現を紹介していきます。
CsytReptilesより出典 - 2013年のGolden Eyeの個体
CsytReptilesによるGolden Eyeは、既存のEye mutationとは異なる表現をしています。
多くのEye mutation同様に虹彩の色が抜ける点は変わりませんが、その虹彩には星を散りばめたような模様が入る表現を持ちます。
こうした表現は往々にしてパラドックスである事が相場でしたが、なんと遺伝性が確認されており、現在CsytReptilesによって繁殖が行われています。
SaSobek Reptilesより出典 - 2014年の"weird one"
SaSobek Reptilesによって"weird one"として紹介される個体もまた、虹彩に星を散りばめたような表現をしています。
一見似たような二つの表現ですが、色の抜けた虹彩に星を散りばめたような模様が入るのがGolden Eyeであり、虹彩が星を散りばめたように色抜けするのがweird oneであり、表現のロジックは異なります。
残念ながらweird oneに遺伝性はなく、現在ではパラドックスの一つとして扱われます。
Geckoboaより出典 - 2021年の個体
Geckoboaにより2021年に紹介された個体は、眼の中の血管が強調されたような独特の表現をしています。
現状はポリジェネティック的に遺伝をしているようで、これは眼の表現としてはとても珍しい事です。
Joe Zhou氏より出典 - 2022年の個体
Joe Zhou氏により2022年に紹介された個体は、青い眼をしています。
出現したばかりの表現で、成長後も同じような色を保つかは分かりません。
それでも、本種において「青い眼をした個体」が生まれたという事は十分にロマンある話でしょう。
Artifactより出典 - ターミネーターアイの個体
流通数自体は多いもののベースモルフではない無い表現としては、ターミネーターアイが有名でしょう。
ポリジェネティック的に遺伝制御が可能とする話もありますが、個人的には懐疑的な段階です。
今後、安定して遺伝するようなラインが作出されるのかも知れません。
ちなみにターミネーターアイという呼称、国内固有なので海外の方に伝えても通じません。
誰が言い出しっぺなんですかね?
Geckos Etc. Herpetocultureより出典 - 2015年のRed Stripe Enigma Projectの個体
CoolLizard.comより出典 - 2016年のMandarin Tangerine Noir Desirの個体
Geckoboaより出典 - 2016年のLemon Frostの個体
パッパッパと並べました、上からエニグマ、NDBE、レモンフロストの眼です。
いずれも新規性があるという話から少し逸れますが、改めて眼の表現にフォーカスしてみると固有の表現であり、魅力的であると言えるでしょう。
しかしながら、ご存じの通りこれら3つのベースモルフには遺伝性疾患が存在しています。
パイドの項で解説した"Inverse"を発端とするバンド状のパイド表現と似た話になりますが、これらの表現は遺伝性のある形で本種に存在する事は確かなのです。
Elvin Chu氏より出典 - 2017年の個体
これは体の表現の話ではありますが、実際にElvin Chu氏によってまるでレモンフロストのような、レモンフロストではない個体が報告された例もあります。
このように、いつかは眼の表現のみが再現された、遺伝性疾患のない異なるベースモルフが誕生する日が来るのでしょうか?
少し話が逸れましたが、新しいEye mutationは現在進行形で世界中で報告され続けています。
一方で、もうEye mutationはお腹いっぱいであるという意見も世界中で散見出来ます。
以上、Eye mutationについて
●メラニスティック+α/Melanistic+α
GeckoBoaより出典 - 2019年のBlack Pearl/Charcoal lineの個体
あらゆる表現のメラニスティック化は、この記事を執筆した2022年において最も流行りの方向性であると言えます。
そもそも"メラニスティック"そのものが多くのブリーダーが固定に挑戦し、そして完成させた選別交配の集大成の一つと言える表現です。
そして、ブラックナイトを中心としたある程度安定した遺伝性を持つメラニスティックが多く流通するようになった事で"真っ黒なレオパードゲッコー"の新規性は失われました。
酷い言い方をしてしまえば多くの人が"見飽きた"ことで、メラニスティックには次のステップが求められ始め、数多のブリーダーにより試行が繰り返されています。
これはタンジェリンの歴史をなぞるようなものであり、現在進行形でその様子を見れることは一飼育者としてとても楽しく感じています。
・ベースモルフのメラニスティック化
ここまでの解説で、ベースモルフの表現を選別交配的に制御する事で、新たな表現を生み出そうとする試みは、本種の選別交配における基本的な考え方の一つであると、なんとなく理解いただけたかと思います。
マーフィーパターンレスとブリザードに対する試行については既に紹介した通りとなりますので、その他の組み合わせを見ていきましょう。
GK Companyより出典 - 2022年のBlanc Noirの個体
GK CompanyによるBlanc Noirは、スーパーマックスノーをメラニスティック化した表現です。
通常のスーパーマックスノーと比較すれば、ここまで表現を歪める事が出来るのかと驚きます。
Pearly Leopardgeckosより出典 - 2018年のMack Super Snow Tremper Albino個体
早速脱線した話になるのですが、スーパーマックスノーの表現制御と言えばストライプ化も突出した個体がいくつか存在します。
これも結構面白い表現だと思うのですが、取り組んでいる方をあまり知りません。
Balfouri Communityより出典 - 2020年のBlack Night Bellの個体
Balfouri CommunityによるBlack Night Bellは、ベルアルビノのメラニスティック化した表現です。
アルビノをメラニスティック化する方向性としてはスタンダードな表現であり、チョコレートカラーをしたパターンレスのレオパを作ろうとする試みです。
本来メラニン色素を欠乏・減少させるアルビノに対して、メラニン色素を増加させようとするこの試みは、アルビノを否定するかのような方向性でありますが、結果として固有の表現が得られている以上は、十分に意味のある方向性と考えます。
PataPata repより出典 - 2022年の個体
PataPata repによる個体は、トレンパーアルビノをメラニスティック化した表現です。
現在進行形で世界各地で行われるアルビノのメラニスティック化の方向性がパターンレスである事を考えると、この個体は非常にユニークで新規性の高い表現であると言えるでしょう。
メラニスティックの効果によるものかバンドの面積は拡大し、本来多くの面積を占めるはずの黄色部がまるでバンドのように見える表現は、ハイナントカゲモドキを彷彿とさせます。
・タンジェリンのメラニスティック化
『SHTCT』つまりスーパーハイポタンジェリンキャロットテールとは、本種における品種発展の父と言えます。
既に30年近い年月をかけ、世界中のブリーダーが各々の思い描くゴールを目指し、円熟した表現こそがSHTCTなのです。
そうしたSHTCTがメラニスティック化される事は当然の流れであると言えるでしょう。
Yang Sung Moonより出典 - 2022年のDark Mandarinの個体
Yang Sung MoonによるDark Mandarinは、SHTCTをメラニスティック化させた正統進化のような表現をしています。
多少見慣れた感のある表現かも知れませんが、昔を思い出すとあり得ない発色です。
ほんの10数年までのSHTCTと言えば、レモン色をしたボディに20~30%程度のキャロットテールをした個体が殆どでした。
タンジェリンは加速度的に表現の幅を広げていると言えるでしょう。
STAY REAL GECKOより出典 - 2022年の個体
STAY REAL GECKOによる個体は反対に、柄のあるタンジェリンをメラニスティック化させたような表現をしています。
市場の殆どのタンジェリンがSHTCT化した中、柄の残ったタンジェリンというだけでも珍しいというのに、それをメラニスティック化しているのですから贅沢この上ない表現と言えます。
以上、メラニスティック+αについて
●オッドボール/Odd Ball
DC Geckosより出典 - 2016年のSunfire radarの個体
まずは"Odd Ball"という呼称について整理していきましょう。
日本語に直訳すると「風変り」や「奇怪」等の意味を持ちます。
この呼称を理解する上で、私が最も理解に苦しんだことは「パラドックスと何が違うのか?」という点です。
過去から現在まで"Odd Ball"の呼称が冠された個体を見る限りでは、異質で奇怪な表現を持ったオンリーワンに対して、それでも遺伝性を期待して"Odd Ball"という呼称が用いられているように思えます。
こんな風に言えばロマンチシズムを感じざるを得ませんが、合理主義的に切り捨てるのであれば各ブリーダーのさじ加減です(笑)
それでも"新規性のある表現"を語ろうとする本記事において、ロマンを無碍にすることは出来ません。
本項では完全に私の独断と偏見で"Odd Ball"的表現を持つ個体を紹介していきます。
Hidden Geckosより出典 - 2023年の個体
Gigemgeckosより出典 - 2023年のOdd Ball Tangの個体
Hidden Geckosによる個体や、Gigemgeckosによる個体は、不自然に色が吹き飛んだような表現をしています。
パイドとはまた違った色の抜け方をしており、表現のロジックがよくわかりません。
Gigemgeckosによる個体の頭部を見れば、タンジェリン的発色のみが脱落し、ピグメントは残されていることが分かります。
小田原レプタイルズより出典 - 2018年のW&Y スーパーハイポタンジェリンの個体
頭部の表現にフォーカスして、先ほどの個体をノンアルビノ化すると、小田原レプタイルズによるW&Y スーパーハイポタンジェリンのような表現となるのでしょうか?
例えばパープルヘッドタンジェリンでは、まるで部分的にスーパーマックスノーになったかのような、同様の表現を背中へ固定することに成功しています。
そうした前例を考えれば、頭部への表現の固定もいつの日か誰かが成し遂げるのでしょうか?
Only Tangsより出典 - 2022年のOdd Ballの個体
Only Tangsによる個体もまた、不自然に色が吹き飛んでいます。
パイドとも言えないですし…なんと分類すれば良いのか…
なんとこの表現、そのF1に遺伝しています。
正直に言って一代限りの表現であると考えていたので、Only Tangsによる続報を見た時には本当に驚きました。
正式にベースモルフとして新たに名を連ねるのかは今後の遺伝検証次第ではありますが、なんとも夢のある話です。
Only Tangsより出典 - 2021年のOdd Ballの個体
ちなみに先ほどの写真の上の個体の若い頃は、このような表現をしていました。
加齢に応じて色が吹き飛んでいく作用でもあるのか…正に奇怪な個体です。
CSST Reptileより出典 - Violet Potionの個体
"新規性のある表現"と銘打つ以上、Violet Potionはやはり外せない存在でしょう。
多くを語るまでもなく、鮮烈な紫色の発色は過去から現在において唯一無二の表現です。
あまりに有名なこの個体ですが、その後は知らない方も多いのではないでしょうか?
CSST Reptileより出典 - 2019年のViolet Potionの個体
実はこんな感じの表現になってしまい、子世代や孫世代でも表現の再現はなされていません。
とかく残念な話ではありますが、こうした現実も含めての"Odd Ball"であり、期待と失望のトライアンドエラーの果てに新たな表現が生まれているのです。
以上、オッドボールについて
[最後に]
Andi Hartonoより出典 - 2022年のEclipse Tangerineの個体(NVN'S REPTILEによる販売個体)
さて、本当に久しぶりのブログ更新となりました。
実はこの記事、2022年の4月に執筆を始めていたのですが…遅筆も遅筆で公開が2023年の10月という体たらくです。
その為、一部の内容が古くなってしまっています。(新規性のある表現について話をしているのに…)
今回の記事ではいつものようなお堅い話ではなく、ロマンの話がしたかったのです。
上のEclipse Tangerineを見て下さい。本当に久々に、発想で負けたと言うか、頬を叩かれた気分です。
所謂パープルヘッド的なバンド状に抜けるタンジェリンに対して、そのバンド部分のピグメントをエクリプスを用いて細かくしようと言う発想力…
これが固定化出来るのか?という話となるとまた別ですが、この表現はレオパに存在出来るという証明なのです。
こうした発想力による表現は勿論として、トランスルーセントやT-アルビノ等の他種ではポピュラーな変異が、レオパには未出現のまま残されているのです。
Baron Kevin氏より出典 - 2021年のStriped E. hardwickiiの個体(上)
SaSobek Reptilesより出典 - 2023年のE. fuscusの個体
更に視野をEublepharis属にまで広げれば、その他の亜種もCB化が進む中で徐々に変異個体が出現してきています。
なんだかワクワクしませんか?
イベントにいけば所狭しと並ぶレオパードゲッコー。最もポピュラーな爬虫類の一種。
もはや見飽きた存在かも知れません。
それでも10年前のレオパードゲッコーと、今のレオパードゲッコーでは表現が別モノなのです。
10年前には多くのブリーダーが夢物語のように語った表現が、今では飽和するほど流通しているのです。
私はそれが、楽しくて仕方ないのです。
きっと次の10年も彼らは驚きを与えてくれるでしょう。
そんな10年後に「あの頃は…」なんて昔話を、この記事を読んでいただけた誰かと出来ればどれだけ楽しいことか。
それでは、また。
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