[腫瘍問題の露見]
レモンフロストの腫瘍問題はGeckoboaのJohn Scarbrough氏により、2017年8月29日にFacebookへ投稿された衝撃的な写真と情報と共に露見しました。
Geckoboaより出典 - 2017年の個体
上記がその投稿であり、激しい論争が巻き起こった事が今でも確認出来ます。
腫瘍を発生させた写真は勿論として、
1. John氏の所有する2匹のレモンフロスト(♀)が腫瘍を発症した点
2. 同様に腫瘍が発生したレモンフロストを所有するブリーダーの報告がある点
この2点の報告は、世界中のブリーダーを震撼させました。
今日までこの投稿を発端として、世界中のブリーダーにより大きな議論が巻き起こる中で
Ⅰ.The Gourmet Rodent
レモンフロストの作出者
Ⅱ.Geckos Etc.のSteve Sykes氏当時TGR以外でレモンフロストの販売権を持った唯一のブリーダー
Ⅲ.GeckoBoaのJohn Scarbrough氏腫瘍問題を露見させたブリーダー
中心となったこの3者による情報、アカデミックな根拠に基づいたを情報を時系列順に解説を行います。
更に、問題の露見から時間が経つ中で判明してきたレモンフロストの特性やブリーダーの試行、このベースモルフを取り巻く現状についても解説を行います。
又、現在アジア圏においてレモンフロストの腫瘍に対する処置方法を紹介する方々がおりますが、その内容はとどのつまり素人による外科手術です。
生業として動物の管理及び販売に10年以上従事した個人としては、正しい免許・資格を持たない素人が、独断で動物にメスを入れる行為は到底受け入れられるものではなく、本記事ではこの手法について一切触れません。
その他、国内においてサプリメントを用いる事で腫瘍の発生を防げると紹介する方々もおりますが、先天性の癌が薬でもないサプリメントで防げるという話について、冷静に一考して下さい。
本記事をお読みになった方の中で、レモンフロストを飼育し、腫瘍問題に悩む方がいらっしゃった場合は、必ず専門の獣医師の指導に従って頂くようお願いします。
又、動物の愛護及び管理に関する法律第六章第四十四条2の項において、疾病にかかった愛護動物に適切な処置を行うことは義務付けられると同時に、罰則も設けられています。
本記事は、従来の書籍では敬遠されがちなレモンフロストにおける腫瘍問題の情報を明らかにし、このベースモルフが持つ魅力的な表現のみにスポットをあてるのではなく、付随する障害についても正しい認知を広める事を目的としています。
その為、内容は商業ベースにおける一部の販売業者への配慮が行われませんが、多くの飼育者がレモンフロストを正しく認知することを望みます。
尚、時系列順に可能な限り全ての情報を記載する事が本記事の在り方である為、記事ボリュームがとても大きくなってしまっています。
曖昧さを回避する為に、冒頭で世界中で議論が重ねられた代表的な疑問について、本記事の最終更新日までの最新情報をもとにQ&A方式で解説します。
Q. レモンフロストから腫瘍問題は切り離せるのか?
A. 不可能。腫瘍はレモンフロストの遺伝子に紐づいた障害。
Q. 腫瘍の発症率はどの程度なのか?
A. 全体の80%程の個体が腫瘍を発生する。発症年齢に制限はない。
Q. 腫瘍の治療は可能なのか?
A. 外科手術により切除は可能。腫瘍はレモンフロストそのものが原因である為、再発防止は不可能。
Q. レモンフロストは動物愛護法違反ではないのか?(日本国内)
A. 飼育に関しては抵触しない。動物取扱業者による繁殖については、動物愛護法の細目(第5条第3項イ)に抵触する違反行為。
上記のそれぞれの詳細については、以下にて解説を行っています。
[序文]
Geckoboaより出典
本記事は2017年10月10日より執筆を始め、更新を重ねています。
「先天性の癌」
というあまりに大きな障害を抱えるレモンフロストですが、その異質で美しい表現は、問題の露見後も暫くの間大手ブリーダーを含む多くの飼育者を魅了し続けました。
近年ではUCLAの研究により腫瘍の発生メカニズムが判明し、腫瘍問題はレモンフロストの対立遺伝子と紐づいた障害である事が決定的となり、大手ブリーダーの殆どがレモンフロストの繁殖から撤退しました。
余談ではありますが、現在でもレモンフロストの繁殖を行うブリーダーの殆どがアジア圏に集中している現状は、欧米諸国と比較した際に、アジア圏の動物福祉が遅れているという現実を実感出来る事態と言えます。
現在でもレモンフロストの繁殖を行うブリーダーの一部では、選別交配により腫瘍問題の切り離しを夢見た試行が繰り返されています。
これは、かつてエニグマの神経障害に対して最初期に行われたアプローチと同じ光景であり、試行のn数が増える中で腫瘍発生(障害)の報告が増え続ける事もまた、エニグマの歴史をなぞるようなものです。
現在では、当初に掲げられた
「腫瘍問題を完全に切り離したレモンフロスト」
という目標は、科学的根拠に基づいたいくつかの研究により根底から否定される中で
「腫瘍の発症率が下がったレモンフロスト」
という黎明期のエニグマと同様の目標へと、すり替わっています。
これは、突出して美しい表現を持ったベースモルフの宿命であるとも言え、今後どのようなエビデンスが提示されようとも、市場からレモンフロストが消える事は無いでしょう。
重要な事実は、レモンフロストを販売する業者の中に、根拠とは言い難い情報を持ち出して
「腫瘍障害の存在しないレモンフロスト」
というブランディングを行い、悪質な商売を行う人間が居るという事です。
以下でも詳細に解説しますが、完全に腫瘍問題から解放されたレモンフロストは、現時点ではこの世界に存在しません。
又、2020年3月31日に公開された以下の論文では、厳しい結論が述べられています。
直訳すると
「虹色細胞腫とゲノムの間に考えられる関連性から、この病変の原因が完全に解明され、記述されるまでは、レモンフロストの更なる交配は推奨されない。」
という内容です。
レオパにおいて何らかの障害を抱えるモルフは決して少なくありませんが、アカデミックな観点から繁殖行為そのものを否定する意見が出たのは初めてのことです。
この論文が掲載されたのは、ネイチャー・リサーチ社によるScientific Reportsというオンラインの学術雑誌です。
このScientific Reportsは、論文のインパクトではなく科学的正当性のみを評価することを目的としています。
このような学術誌において、繁殖を否定する意見が掲載された以上、趣味としてこの種類を楽しむ程度の我々一飼育者が取り扱うべきモルフでは無いと考えます。
この論文や病理報告書の全てにおいて、専門的な立場にある方々によってレモンフロストの繁殖について否定的なエビデンスが示されています。
そして、繁殖について肯定的なエビデンスは現在までに一つも示されていません。
上記を理由に最終更新日において、本記事ではレモンフロストの繁殖は否定的であるという立場から、解説を行います。
尚、立場とは関係なく「科学的な根拠に基づく情報」の全てを記載し、繁殖継続に向けた肯定的なエビデンスが示された場合には、積極的な解説を行います。
以上を踏まえた上で、お読みいただければ幸いです。
[時系列順の情報]
●2017年8月29日 : John Scarbrough氏
1. 所有する2匹のレモンフロスト(♀)に腫瘍が発生した。
2. 同様に、レモンフロストを飼育するブリーダーの中で腫瘍発生を確認している。
●2017年8月30日:Steve Sykes氏
1. 腫瘍問題に関してThe Gourmet Rodentから、2017年1月下旬まで情報の共有が無かった(Steve氏は2015年10月にTGRより購入)。
2. 所有するレモンフロストに「白い斑点」は出たが、腫瘍にまで成長した個体は居ない。※1
3. 「白い斑点」が出現した個体に関して、絶対に繁殖のラインに組み込んでいない。
4. 2017年の繁殖プロジェクトでは「白い斑点」を取り除くことを目標としている。※2
※1 後の病理解剖により、白い斑点は虹色細胞腫=腫瘍である事が判明します。
※2 現在、Steve Sykes氏はレモンフロストの繁殖から撤退しています。
以下、Steve Sykes氏による原文
"Thanks John for creating this thread. Here is my understanding of the spots/benign tumors:
We have not brought this issue to the gecko community because it isn’t pervasive in our collection. We have not announced this publicly but have discussed this to anyone who has asked us about this.
We were surprised by this in late January 2017 when it was brought to our attention by a customer that noticed it on his gecko. Immediately, we evaluated our collection and are continuing observations. We observed a low percentage of 2016 hatched LF to show these raised spots, and even fewer numbers in our 2017 babies. No LF with these spot issues are showing any signs of being sick or stressed and none of these LF in our collection have died at our facility. And as is our commitment and our standard practice, any animal showing any issue is isolated and has never been offered for sale or bred.
So how did the LF morph all start? In October 2015, I won the LF at an auction from Gourmet Rodent. I brought home Ms. Frosty in October 2015 and in December 2015 I brought home Mr. Frosty. Mr. Frosty hatched in 2015 and when we received him we noticed no tumor spots (nothing appeared out of the ordinary). He does have some intense white spots (not raised) which seem to be normal for LF. When we first heard of these raised spots, we checked him extensively and found one very small, slightly raised spot on his side that we have been monitoring. Since January 2017, it has not changed in size or shape. Ms. Frosty hatched in 2015. She never exhibited any white spots. She has since died due to a parasite issue she had when I received her. She was never bred. Gourmet Rodent never shared any information with me about the white spots until I brought it to their attention in late Jan 2017. At that time, they told me they had just recently seen this as well and were investigating it as well.
No spots or tumorous growths were visible on any LF animals sold in 2016, and I continue to only sell LF within healthy parameters at all times that show no issues.
We structured our 2017 breeding projects with animals showing no raised spots and there is a significant reduction in raised spots observed on this year’s production. We are feeling confident that our breeding projects can continue to bring down and hopefully eliminate the incidence of these raised spots.
I am still super excited about the LF and all of the fabulous combination morphs that we have been hatching, and the exciting directions that this gene can be taken. The animals are spectacular and it is a daily joy for me to watch the 2017 hatchlings as they grow. As is the case with any new morph, there are things that need to be determined and figured out. We are pioneers and working on it daily to bring this morph to perfection!"
●2017年8月30日:The Gourmet Rodent
1. レモンフロストに発生する皮ふ上の腫瘍について把握していた。
2. この腫瘍は、獣医師の検査結果より色素細胞腫であると判明している。※1
3. スーパー体において高確率で腫瘍を発生させた為、販売を行わなかった。
4. 腫瘍の原因は、レモンフロストを固定する上で行った過度なインブリードである。※2
5. 今後のアウトクロスにより、腫瘍問題は解決可能である。※2
6. 販売したレモンフロストに問題が起きた場合は、一緒に解決策を考えます。※3
※1 現在までに、診断書等の情報は提示されていません。
※2 2021年のUCLAの研究より、この説は完全に否定されました。
※3 日本に販売されたTGR産のレモンフロストの内、腫瘍が発生した個体の中で補償対応がなれなかった例を確認しています。
Source1:The Gourmet Rodentによる原文
●2017年9月23日:John Scarbrough氏
1. 3世代にわたるアウトクロスを行ったが、問題は解決していない。
2. シブリング個体において腫瘍は確認出来ず、問題が独立している可能性は考え難い。
3. 腫瘍は皮ふ上のみでなく、肝臓と腎臓への転移を確認している。
4. 腫瘍原因による死亡例の報告も出ており、悪性であると考える。
Source1:3.について、John Scarbrough氏による原文
●2017年9月23日:フロリダ大学獣医医療センターの病理医(John Scarbrough氏依頼)
1. 皮膚上の白色を形成する細胞は虹色細胞である。
2. 虹色細胞が多い程、虹彩の白い表現も濃くなる。
3. レモンフロストそのものが虹色細胞の不均衡を高め、腫瘍を引き起こす可能性が高いと仮説する。
以下、John Scarbrough氏が病理医と話した内容
"I would also mention that the pathologist hypothesizes that the morph causes an heightened imbalance of iridophore cells and this cell imbalance is likely what causes the tumors. One other interesting point that he mentioned was that the higher levels of iridophore cells can lead to higher concentrations of white in the eyes."
●2017年10月3日:フロリダ大学獣医医療センターの病理医(John Scarbrough氏依頼)
1. John氏提供のメス個体に皮ふ上に腫瘍を確認、肺と肝臓に細胞の凝集体を確認した。
2. Don氏提供のオス個体に器官、肺、肝臓、腎臓、脂肪体及び皮ふ上に腫瘍を確認した。
3. この事から転移性のある悪性腫瘍である。
4. レモンフロストの腫瘍は虹色細胞腫であり、これはTGRの発表の通り色素細胞腫である。
5. 後日、きちんとした臨床結果を発表する。
Source1:病理医よりJohn Scarbrough氏へ宛てられた原文
●2017年11月14日:フロリダ大学獣医医療センターの病理医(John Scarbrough氏依頼)
[レモンフロストについて]
このモルフが白く見える理由は、虹色細胞内に結晶を持ち偏光下で屈折により白く輝いているからである。
虹色細胞腫は爬虫類全体では珍しい診断結果ではないが、腫瘍が先天性で遺伝する疑いがある性質は非常に珍しい。
又、虹色細胞腫は分化した細胞が未分化の状態へ戻り、その結果として結晶を失う場合が多い。
しかし、レモンフロストに発生する虹色細胞腫は、細胞の全てが結晶を持ち続ける特性を持つ。
虹色細胞を発生させるこの遺伝子は、腫瘍発生の傾向を高める可能性がある。
子孫の腫瘍発生率が高かった場合、レモンフロストの繁殖は推奨されない。
[レモンフロストへの医学的診断]
ⅰ. レモンフロストは成熟につれて最大で95%以上の個体が皮ふ上に白い腫瘍を形成する。
ⅱ. 虹色細胞腫は転移性があり、悪性の腫瘍=癌である。
ⅲ. 皮ふ上に虹色細胞腫を形成、転移先の内臓に肉芽腫を形成する。
[John Scarbrough氏提供のメス個体について]
最終的な処置:安楽死
腫瘍・凝集体を確認した箇所:皮ふ、肺、肝臓、膵臓、瞼、手足、尾
診断内容
ⅰ. 最大の虹色細胞腫は肛門周囲の皮ふにあり、周囲への拡大を認めた。
ⅱ. 手足、及び尾の皮ふには、初期の虹色細胞の凝集体を確認した。
ⅲ. 小さな虹色細胞腫は肺の中にも存在し、転移性が極めて高いことを証明している。
ⅳ. 安楽死の際、体調は良好であった。
ⅴ. 時間経過による内臓への腫瘍の転移は、正常な機能を失うことから安楽死を行った。
[Don Hamilton氏提供のオス個体について]
最終的な処置:安楽死
腫瘍・凝集体を確認した箇所:皮ふ、肺、肝臓、腎臓、体脂肪、精巣及び睾丸、瞼
診断内容
ⅰ. 最大の虹色細胞腫は右眼周囲の皮ふ、顎、器官にあり、周囲への拡大を認めた。
ⅱ. John Scarbrough氏提供の個体と比べ、病状はより進行していた。
ⅲ. 全身に腫瘍が存在していた。
ⅳ. 安楽死の際、痩せた状態にあった。
ⅴ. 多数の腫瘍以外に感染症、炎症、代謝の問題は確認されず、痩せている状態の原因は腫瘍である可能性が高い。
●2017年12月1日:Steve Sykes氏
Northwest Zoopathのkeith benson博士に協力を依頼した。
1. 人道的に、腫瘍が発生した8匹のレモンフロストを安楽死させた。
2. 安楽死の際、虹色細胞腫を除き全ての個体の体調は良好であった。
3. 腫瘍発生には個体差があり、これは腫瘍を発生しなかった個体での繁殖により、その発生を低減できる突然変異であると考えられる。※1
4. 腫瘍を発生させた個体は、繁殖のラインからは外すべきである。
5. 8匹の腫瘍は痛みを伴うものではなく、正常な行動や摂食の障害とはならなかった。
6. レモンフロストのこの問題の調査はまだ始まったばかりで、より多くの研究を必要とする。
7. レモンフロストの何%が腫瘍を発生させているのかを知る必要がある。
8. この腫瘍に関する複数の逸話はデータではなく、根拠がない推測には価値が無い。※2
※1 この頃から、腫瘍問題の完全な切り離し論から発生率の低減論に目標が変更されていきました。
※2 後述しますが、この発言はJohn Scarbrough氏により強く批判されました。
●2017年12月1日:John Scarbrough氏(Steve Sykes氏に対して)
1. レモンフロストに発生する色素細胞腫は明らかに広範囲に転移していく。
2. 病理的解剖を行った♀個体は、小さな腫瘍や凝集体を除き完全な健康状態にあるように思えたが、肺と肝臓に転移を認めた。
3. アウトクロスを行ったレモンフロストであっても、腫瘍を現している。これをただの不運だと言うのか?
4. あなたの発言こそが逸話であり、利益を得ようとする行為である(Steve氏は2017年1月にはこの問題を認識しながら、この情報を隠匿しレモンフロストの販売を行った背景があります)。
Source1:John Scarbrough氏による原文(コメント欄にて、非常に怒っている様子が伺えます。)
●2017年12月1日:Northwest ZooPathのKeith Benson博士(Steve Sykes氏依頼)
[Steve Sykes氏提供の8個体について]
最終的な処置:安楽死(全個体)
個体の情報 :オス・メス(生後半年~1年程)
腫瘍・凝集体を確認した箇所:虹彩、聴覚口、顎の下、背中、骨盤の下、腋窩部(ワキの下)
[各個体の診断内容要点]
1.今回の病理解剖の中で、腫瘍の転移性について説得力のある証拠は得られなかった。
2.しかし、レモンフロストの遺伝子を要因として腫瘍が発生している可能性を考慮する必要はある。
3.腫瘍は多中心性である(1つの臓器に複数の腫瘍が発生し、再発性が高い)。
4.腫瘍の完全な切除にはマージン(腫瘍を囲む正常な細胞)が必要であり、これらの腫瘍では十分なマージンが確保出来ず完全な切除を保証出来ない。
●2017年12月4日:John Scarbrough氏(問い合わせた情報)
実際に意見交換を行う為、John Scarbrough氏へ直接問い合わせをしました。
会話内容から抜粋して紹介します。
上の写真はとあるブリーダーが飼育していたレモンフロストです。
切除手術を行ったものの完全な切除には至らず、残念ながら既に死亡しています。
又、上の写真のように一部の色素が濃くなっているだけの個体でも、冒頭の写真のようにこぶ状に隆起している個体でも危険性は変わらず、腫瘍は近辺の細胞に広がり健康な組織を侵食し、内臓へと転移して正常な機能を失わせます。
この特異な性質をもつ、通常と異なる虹色細胞を発生させるモルフがレモンフロストであると仮説しています。※1
※1 この仮説は、2021年にUCLAから発表された論文が裏付けとなり、暫定的に仮説ではなくなりました。
●2017年12月4日:John Scarbrough氏
レモンフロストの取り扱いを完全に停止し、全ての個体は研究の為に大学へ寄贈されました。
●2020年3月31日:ヴロツワフ環境生命科学大学獣医学部
レモンフロストについて研究をした論文を、ネイチャー・リサーチ社によるScientific Reportsというオンラインの学術雑誌にて掲載しています。
この論文は、学術的な観点からレモンフロストに触れた初めての論文です。
冒頭で紹介した「虹色細胞腫とゲノムの間に考えられる関連性から、この病変の原因が完全に解明され、記述されるまでは、レモンフロストの更なる交配は推奨されない。」という結論の他にも、ペット流通が盛んであるにも関わらずゲノム解析等の科学的なアプローチが行われていない点。
その為、モルフ名は商業ルートにおけるニックネームであり、どのような染色体異常かは全く解明されていない点等が指摘されています。
又、現時点までに行われた腫瘍問題解決を目指した検証には科学的な観点があまりにも欠如していると記述され、商業ルートにおけるレモンフロストに対する試行への痛烈な皮肉が読み取れます。
その他にも重要な記述としては「皮ふ上に発生した腫瘍の切除は処置として有効であり当該部位での再発は見られなかったが、別の部位において腫瘍を発生させた。」という内容です。
これまでに仮説された通り、腫瘍問題はレモンフロストそのものに紐づいた問題である事がより確かな説となりました。
論文である為、内容の全訳掲載は控えます。英語が苦手な方であっても十分に読める内容ですので各自お願いします。
以下、論文内での結論
"In view of a putative connection between iridophoromas and the genome, further breeding of the Lemon Frost leopard gecko line is not recommended until the pathogenesis of the lesions will be fully recognised and described."
●2021年1月27日:カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)
レモンフロストについて研究した論文を、bioRxivというサーバーに掲載しています。
この論文では、33匹のレモンフロスト ホモ接合体と116匹のレモンフロスト ヘテロ接合体、39匹のノーマルの合計188匹を用いて研究が行われています。
その中で、レモンフロストは生後6ヵ月-5年以内に80%の個体が虹色素細胞腫を発生させると記述されます。
又、腫瘍発生のメカニズムに関する仮説と、解決方法についても触れられています。
レモンフロストというベースモルフには、SPINT1(上皮細胞腫瘍の抑制作用がある遺伝子)を破壊する作用があり、結果として虹色素細胞腫を発生させると解説されています。
この解決方法として、ブラウンアノール(Anolis sagrei)にてCRISPR-Cas9という遺伝子改変ツールを用いたチロシナーゼ遺伝子の変異成功例を引き合いに出し、レモンフロストにおけるSPINT1変異部分を標的として遺伝子編集を行う事で、腫瘍の発生を排除出来るのではないか?という可能性が論じられています。
もしもこの手法が成功すれば「腫瘍問題が完全に存在しないレモンフロスト」という、完全な問題解決が行われます。
これは非常に明るい話題でありますが、この手法により腫瘍問題が解決を見せた場合、残念な事に日本国内では飼育が違法となる可能性が高いです。
と言うのも、遺伝子編集についてはカルタヘナ法で規制が入っており、今回解決法として示されるCRISPR-Cas9を用いた遺伝子編集の一部(SDN-2及びSDN-3)が対象となります。
実際の研究が進まない事には判断出来ませんが、最終的に解決を見せた際に用いた手法がSDN-1でない限り、国内での飼育は叶いません。
論文である為、内容の全訳掲載は控えます。
上記以外にも肝臓への転移例やヘテロ接合とホモ接合体での症状差等、より細かい解説がなされておりますので、是非とも各自でお読みいただくようお願いいたします。
●2021年6月24日:Steve Sykes氏
Scientific Americanによる記事の中で「レモンフロストの飼育・繁殖を中止し今後の再開はない」と回答しています。
又、UCLAの研究を踏まえた上で「レモンフロストから腫瘍を切り離す事は不可能」という考えについても述べています。
[3者の現在]
本項では、時系列順の列挙が難しい情報に関して紹介していきます。
【The Gourmet Rodent】
現在、レモンフロストには腫瘍問題が存在すると認め、販売を取りやめています。
世界中で現在もレモンフロストに対して様々な試行がなされる中、2017年8月30日以降は本件について全く触れず、何の情報も開示していません。
世界で初めて誕生した二匹のレモンフロストの内、メス個体の写真が突然露出しなくなり、暫くした後に死亡の発表があった点から、インブリードとは関係なくオリジナル個体にも腫瘍が発生したのではないか?等の憶測が飛び交う中、無言を貫いている為に真偽は不明です。
更に、一部の販売業者に対しては初回販売前に腫瘍問題を伝え、販売を行っていなかった事実も判明しています。一方で、多くの個人飼育者やブリーダーに対してはこの問題を隠匿し、1匹$2,500という価格で大量に販売を行っています。
古参の超大手爬虫類販売業者でありながら、あまりにも酷いスタンスについては、世界中から非難の声が集まる形となりました。
又、インフォメーションでは腫瘍発生時には補償対応を行うと発表をしていましたが、初期ロットを購入(TGRと直接取引)した国内の飼育者の中で、腫瘍発生後に補償対応が無かった例を確認しています。
【Geckos Etc. - Steve Sykes氏】
現在、レモンフロストには腫瘍問題が存在すると認め、販売の停止及びブリードから撤退しています。
2017年の腫瘍問題露見後程なくして、単純なカラーモルフとしては捉えずに、腫瘍問題の解決を目指すブリードを行うプロジェクトが発表しましたが、2019年にはレモンフロストの販売ページがHPより削除され、インフォメーションのリンクもHPより削除されました(ページ自体は残されていました)。
2021年のScientific Americanによるインタビューの中で「レモンフロストの飼育・繁殖は中止しており、今後再開する予定もない」と回答している為、上記のプロジェクトは既に終了しています。
余談ではありますが、John Scarbough氏が腫瘍問題を公表したタイミングは、Steve Sykes氏が二度目にレモンフロストを販売しようとHPに大量アップした直後であり、世界中からの批判が集まる中で販売の停止を余儀なくされました。
その為、前述のプロジェクトが本心であったのか、ひとまずの建前であったのかは不明です。
腫瘍問題の露見後にHP上でのレモンフロストの販売は取りやめたものの、各地の即売会にて販売は暫く続いた事から、どうにも二枚舌感は否めません。
上記の通りSteve Sykes氏は腫瘍問題を認知しながら、隠匿し、販売を行ったことは事実です。
しかしながら、同氏もまたTGRにより腫瘍問題を隠匿された状態で$10,000(当時のレートで120万円)で購入している被害者の一人であることも事実であり、同情の余地はあります。
腫瘍問題を公表せずに販売した飼育者に対して、腫瘍発生時には補償対応を行いました。
Source1:Steve Sykes氏によるLemon Frostの解説
Source2:Steve Sykes氏によるSuper Lemon Frostの解説
Source3:Scientific Americanによるインタビュー
【GeckoBoa Reptiles - John Scarbrough氏】
腫瘍問題を露見させたブリーダーであり、レモンフロストには腫瘍問題が存在すると一貫した注意喚起を行っています。
今後腫瘍が発生しないレモンフロストを作出する過程で生じる「安楽死以外の選択肢がない腫瘍発生個体をどうするのか?」という倫理的な観点より、ブリードから完全に撤退しています。
又、腫瘍は虹色細胞が原因であるという仮説から「腫瘍抑制には虹色細胞を減らす必要があり、その結果として固有の色素胞を限りなく薄めたレモンフロストの表現に意味はあるのか?」という部分にも言及しています。
余談ではありますが、氏は以前より一貫してレオパードゲッコーのQOL(Quality of Life)を重要視しており、神経障害の切り離しが不可能であったエニグマや、眼球収縮及び不妊問題の切り離しが不可能であったNDBEも、レモンフロストと同じく取扱いを停止しています。
当時の質疑応答からも、商業ブリーダーでありながら高い倫理観を持ち、命としてのレオパードゲッコーを考えている事が伺えます。
以下、John Scarbrough氏によるレモンフロストの扱いに対する回答
"As far as the geckos I already have, I will take the same approach and philosophy I have always taken. It will be solely based on quality of life and the animal first. If the geckos are in pain and suffering they will be humanly euthanized. As we now know, the tumors affect internal organs as well and there is likely no treatment. Until that point, I will keep them or adopt them out to good homes with full disclosure. Some may never develop tumors and may live long happy lives."
[ブリーダーの試行に関する情報]
ここまでに記述した通り、商業ブリーダーにより繰り返される現在の「検証」には科学的な見地が圧倒的に不足しています。
現在までに公開された論文や病理報告書のみがレモンフロストを評価する為の根拠であり、これらと相反する経験談の全ては科学的根拠に基づかない噂話に過ぎません。
現在の商業ブリーダーによる多くの試行結果は、最初からこのモルフを肯定する為、若しくは否定する為に、結果ありきで行われている稚拙なトライアンドエラーの域を出ないと理解する必要があります。
本項にて以前までは、ブリーダーによる試行の多くを紹介しておりましたが、近年では研究が進む中でレモンフロストにおける腫瘍の発生メカニズムや、その回避方法の仮設等についても語られるようになりました。
その為、ブリーダーによる無作為な試行について、論文や病理報告書と同等のエビデンスとして扱う事は不適切であると考え、本項の内容については上記の記事へと分割しました。
[爬虫類における虹色細胞腫]
本項では、レモンフロストにおける色素細胞腫に限らず、爬虫類全体における色素細胞腫について考えていきます。
学術雑誌であるJournal of Comparative Pathologyの146号にて「Melanophoromas and Iridophoromas in Reptiles」という論文が掲載されています。
この論文では爬虫類の色素細胞腫について、多種合計26体からの報告がまとめられています。報告される色素細胞腫の種類は、表題の通り黒色細胞腫と虹色細胞腫になります。
中でも爬虫類に発生した虹色細胞腫について、論文内では良性及び悪性の両報告が存在することが記述され「リンパまたは血管への浸潤および転移が確認されるかどうかが、爬虫類における悪性腫瘍の指標である」と結論しています。
又、「これらの腫瘍の潜在的な悪性度合については、臨床的に考慮されるべきであり、詳細の解明には更なる研究が必要である」とも記述されます。
論文である為、内容の全訳掲載は控えます。
現在、レモンフロストに発生する虹色細胞腫については、フロリダ大学獣医医療センターの病理報告書より転移例が報告されています。レモンフロストにおける腫瘍の中で、悪性の腫瘍が存在することはこの論文からも裏付けられます。
[レモンフロストについて]
The Gourmet Rodentより出典
●レモンフロストの概要
レオパードゲッコーのアダルト個体は本来「虹色細胞」を持ちません。その為、通常は「虹色細胞腫」が発生することはありませんでした。
レモンフロストは虹色細胞を発生させる固有のベースモルフであり、その独特の発色や虹彩や虹色細胞腫はその色素胞によるものです。
虹色細胞腫は内臓への転移が認められ、爬虫類における悪性腫瘍(癌)の基準を満たす事が論文や病理報告書により示されています。
腫瘍の発生確率については、病理報告書にて「成熟に伴い最大で95%」、論文にて「生後6ヵ月から5年までの間で80%」という高い数値が示されます。
この腫瘍問題はレモンフロストそのものに関連する事(上皮細胞腫瘍の抑制作用がある遺伝子が破壊されている)が示されており、今後のゲノム編集等の研究発展により根本的な解決が目指されます。
しかしながら、ゲノム編集によりレモンフロストの問題が解決した場合、日本国内ではカルタヘナ法に抵触し、飼育そのものが違法となる可能性が高いです。
●悪性の腫瘍
Highwoods Exoticsより出典
現在、レモンフロストに発生する腫瘍については、その発症率よりも致死性ばかりが議論される傾向にあります。
厳しい事を言うようですが、これはレモンフロストをどうにか繁殖し続けようとする人々による、問題の論点逸らしの果ての議論です。
当初存在した「この腫瘍問題は遺伝性であるか否か?」という議題は、いつの間にか「この腫瘍の発症率は高いのか?」という議題にすり替わり、現在では「この腫瘍の致死性は高いのか?」という議題にすり替わっています。
これは最早結論ありきの議題であり
「致死率が低いのであれば、腫瘍が発生しようとレモンフロストに問題はない。」
という、動物福祉を完全に無視して繁殖を正当化しようとする行為に過ぎません。
本来議論されるべきは、レモンフロストが遺伝的に発症させる腫瘍の致死性ではなく、悪性であるか?という点です。
爬虫類における悪性腫瘍の条件を満たす事は明らかです。国内飼育者による写真協力
未だに致死性について議論が続く理由の一つとして、一般の飼育下で腫瘍が発生した個体、発生しなかった個体。発生後に死亡した個体、変わらずに生きている個体。その症状が多岐に亘る為です。
重要な事実は
「遺伝性疾患としての腫瘍を発症した個体の中で、腫瘍を原因として死亡した個体」
が存在している事であり、腫瘍を原因として死亡するリスクを否定する事は不可能です。
「もし腫瘍が発生しても死なない場合もあるから大丈夫」等という話を前提として、このベースモルフを肯定しようとする行為は誤りです。
ここまでに紹介した腫瘍の転移例の他に、腫瘍の破裂例も少数確認出来ます。
上のショッキングな写真の個体は、腫瘍の発生から僅か三週間程で破裂に至りました。残念ながら、この後二週間程で死亡しています。
飼育者の方は死因特定の為、数箇所に解剖依頼を出しましたが全て断られています。その為、病理報告書等は存在しませんが、この個体の死亡理由と腫瘍が無関係であるとは考え難い状態です。
同様に、腫瘍破裂を起こし死亡した他の個体も存在する中、破裂後に外科的な治療を行い良化した個体も確認出来ます。
そのことから「破裂=死亡」の構図とはなりませんが、自然治癒は難しく適切な処置が必要であることは明らかでしょう。
この腫瘍破裂についても、腫瘍の転移性同様、科学的な根拠に基づいたデータが示されることが待たれます。
●倫理的な問題点
腫瘍発生率の低いレモンフロストを完成させるまでの過程で腫瘍が発生した個体群は、獣医師による外科手術、最終的な安楽死を行う必要がある可能性があります。
又、現時点で腫瘍発生の完全な制御が行えないことからも、この状況下で新たにレモンフロストを産み出すという行為は常に倫理的な問題を抱えます。
レオパの健康を阻害し、先天的に重度の疾患を抱える可能性があり、専門家からも繁殖が非推奨とされるベースモルフを、専門家でない素人が新たに生み出すという行為については再考する必要があります。
この辺りの倫理に関する話題は、下記記事にて取り扱っています。
●動物愛護管理法との照らし合わせ
現状、レモンフロストの繁殖は動物愛護法に抵触する違反行為です。
動物取扱業者が遵守すべき動物の管理の方法等の細目にて、以下のように定められています。
第五条 三 イ販売業者、貸出業者及び展示業者にあっては、販売、貸出し又は展示の用に供するために動物を繁殖させる場合には、遺伝性疾患等の問題を生じさせるおそれのある動物、幼齢の動物、高齢の動物等を繁殖の用に供し、又は遺伝性疾患等の問題を生じさせるおそれのある組合せによって繁殖をさせないこと。ただし、希少な動物の保護増殖を行う場合にあってはこの限りでない。
現在までに示されたエビデンスより、腫瘍問題はレモンフロストに紐づいた遺伝性疾患である事は明らかです。
その為、上記の"遺伝性疾患等の問題を生じさせるおそれのある組合せによって繁殖をさせないこと。"という部分に違反しています。
尚、上記の細目は、あくまでも動物取扱業者に対する規則であり、個人飼育における繁殖行為には影響を与えません。
●実験動物としての可能性
商業や趣味の世界では絶望的な状況にあるレモンフロストですが、癌研究のモデル生物として保存される可能性があります。
虹色細胞腫の研究という点では、ゼブラフィッシュを利用した研究が進んでいる事から、このレモンフロストがモデル生物として正式に選択されるかは未定のようですが、一つの選択肢としては期待されている事が伺えます。
●レモンフロストを取り巻く現状
日本を含め世界中で、議論ではなく論争が巻き起こっている状態にあります。
これは「このモルフの表現があまりにも特異で美しい点」と「腫瘍が発生してしまった個体の外見があまりにも痛々しい点」が天秤にかけられ、是が非でもこのモルフを肯定したい側の人間と否定したい側の人間に別れてしまっているからです。
実際に、多くのブリーダーにより行われた試行の数々は、最初期に行われた一握りを除いて中立性に欠けており、肯定若しくは否定の結論ありきで行われています。
何度も前述した通り、アカデミックな観点からこのモルフの繁殖は否定されます。このような根拠の他にも、レモンフロストの繁殖を肯定し試行を続ける中で、取扱いを完全に停止したブリーダー達の経験談についても耳を傾けるべきです。
レモンフロストの繁殖を続けたブリーダーの中でも、Micha Wo氏による中止の報告は核心をついています。
『最初のレモンフロストを購入した時、このモルフが癌と関係している事を知りませんでした。しかし大金をつぎ込んだ後にまもなく、癌の問題は発覚しました。
私は傷ついたプライドや傲慢の為に、レモンフロストと癌は関係ない事を証明する為、様々な組み合わせによるブリードを行いました。
繁殖した個体に癌の兆候は見られず、私は誇りや喜びの中に全ての警告を無視しました。同時に繁殖を続ける中で、私の健康に思えるレオパが癌に襲われる事に怯え続けました。
私がレオパを趣味にする理由は、偉大な動物であり、可愛い動物であるからです。この時点で我々は、レモンフロストの繁殖を中止する事を決定しました。
その間、私の所有するレモンフロストの1体が突然死亡しました。健康であると信じていましたが、内臓の癌により死亡しました。私は警告に耳を傾けなければなりませんでした。このモルフの魅力と、健康に見えた繁殖個体が私を盲目にしました。
私は、新人・ブリーダー・飼育者の全てにアドバイスをすることが出来ます。レモンフロストに誘惑されないで下さい。このモルフに価値はありません。
これはフロドと指輪のような関係です(ロード・オブ・ザ・リングに例えて)、そして、私達はこの物語の結末を知っています。』
という内容です。
かなり会話調であった為、重要な部分を抜粋して翻訳しております。原文は下記に記載しますので、より細かいニュアンスが気になる方はお読み下さい。
私達の論争に命ある彼らを巻き込むべきでは無く、冷静にこのモルフを見つめ直し、正しい選択を模索するべきです。
[最後に]
GeckoBoaより出典
数あるベースモルフの中でも頭一つ飛びぬけた異質な魅力を持つこのモルフが、重度な障害を抱えていた事実は非常に残念なことです。
同時に、世界各地のブリーダーにより議論や試行がなされ、最終的には研究対象とまでなっていった一連の流れは、一人の飼育者として非常に興味深いものでありました。
本モルフにおける議論…と言うより論争については、学術的な観点から繁殖を否定する意見が示されたことで一つの決着をみせたように思います。
「虹色細胞腫とゲノムの間に考えられる関連性から、この病変の原因が完全に解明され、記述されるまでは、レモンフロストの更なる交配は推奨されない。」
最早このモルフは私達趣味人の手からは離れたと考えます。
繰り返しますが、現時点までに2020年3月31日に公開された、アカデミックな観点からレモンフロストを捉えた論文に勝る検証は存在せず、相反する意見の全てはデータ化の行われていない経験談に過ぎません。
当該の論文と病理医達による報告書のみがレモンフロストを評価する為の根拠であり、ブリーダーによる多くの試行結果は、このモルフを肯定ありき、若しくは否定ありきの「憶測」に過ぎないと十分に理解する必要があります。
又、今回は紹介しなかったいくつかのアカデミックな意見の中には「故意に色素細胞腫を発生させられる珍しい特性を活かして研究に利用したい。」という物もあり、色素細胞腫の研究材料としての価値も見出されつつあります。
現在、日本国内においてレオパードゲッコーは愛護対象の動物です。
どんな事情を抱えた子であっても、自己が飼養する愛護動物が疾病にかかり、又は負傷した際には適切な処置を行う事が、動物愛護管理法にて義務付けられています。
レモンフロストに対する根本的な治療法は未だ明らかにならず、処置の全ては対処療法になります。
科学的な根拠に基づいた繁殖に否定的な意見が出される中で、肯定的なエビデンスは存在しない状態にあり、試行を行ったブリーダーは後悔の経験談を綴り、動愛法の観点からも付随する障害を理解した上で故意に産み出す行為には疑問が残る状態と言えるでしょう。
このモルフは冷静に根絶が目指されるべきであると考えますが、既に存在している個体については大切に飼育される必要があります。
批判を受けるべき者が居るとすれば、それはレモンフロストや個人の飼育者ではなく、無作為に繁殖を行い販売を続ける一部の業者です。
私たちが彼らと生活を共にするに辺り、命であるということを忘れてはいけないと常に思います。
非常にコレクション性が高く、カラーバリエーションが豊富なレオパにおいて、いかに多くの種類を所有し、どれだけ多くの知識を持つことが一種のステータスとなっている現実があります。
「大量の知識を持っていても、有事の際に病院の一つにもいけない倫理観で彼らと向き合う飼育者」
「初めての飼育で何も知らないが、少し気になる事があればすぐに病院に連れて行ける飼育者」
レオパに必要とされるのは後者の飼育者であるはずです。
何事も経験を第一とする考え方を否定するつもりはありませんが、私達が趣味としているモノは「命ある動物」です。
本当の意味で経験を大事にするのであれば、ほんの少し立ち止まって、同じ趣味を楽しむ先人たちの経験談にも耳を傾ける必要があると考えます。
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