エニグマ,W&Y:異なる二つのシンドローム

今やコンボモルフからは切り離せないベースモルフとなりつつある、エニグマとW&Y。

そしてこれらのモルフを扱う以上、神経障害の問題もまた切り離せません。

それぞれの神経障害はEnigma Syndrome(ES)、WY Syndrome(WS)と呼称され、異なる症状を示すと考えられています。

本記事では、この二つのシンドロームの特徴差や現時点までの試行を紹介することを目的としています。


[特徴差を知る]

・エニグマシンドローム(ES)

1.エニグマに紐付いた神経障害であり、分離することは不可能。

2.症状として、おかしな方向に首が曲がり、異常な回転行動を示す。

3.症状を示さない個体であっても、ストレスを起因として発症する場合がある。

4.捕食時など、興奮した時に症状は顕著になる。

5.エニグマを含む全ての個体は神経障害のリスクがある。

6.ESは必ず発症する訳ではないが、発症個体の根治は不可能。

Source1:ESの映像


・W&Yシンドローム(WS)

1.W&Yから独立した神経障害であり、分離することが可能。

2.症状として、バランスを失ったように上に反りかえる異常行動を示す。

3.症状を示さない個体が、後天的に発症することはない。

4.捕食時など、興奮した時に症状は顕著になる。

5.W&Yを含む個体の中でWSを含む個体の全てが神経障害のリスクがある。

6.WSは必ず発症する訳ではないが、発症個体の根治は不可能。

Source1:WSの映像


まず二つのシンドロームについて、簡略に列挙しました。

症状について文章のみでは分かり難かった為、それぞれの映像リンクをつけています。

特に重要な点はそれぞれの1.であり、シンドロームの切り離しが行えるか、行えないかの違いです。

まず、切り離しが行えるWYシンドロームの除去方法について解説を行います。


[WSの除去方法]

W&Yシンドロームの除去については、GeckoBoaのJohn Scarbrough氏により解説が行われています。その内容を和訳し、図を用いて解説します。

原文については下記に記載します。

現状、WSの厳密な遺伝形式は不明であり、単純なヘテロ・ホモで表現してしまうと誤解が生じる可能性がある為、今回はキャリアという言葉を使用します。

基本的に行うことは、シンドロームを発症しない個体を用いた選別交配です。

W&Yの遺伝子を保有する個体は、上記の3パターンに分類できます。

それぞれの個体を親に用いた場合の、子供のパターンが下記の通りです。

1.片親にWSキャリア・発症アリを使用した場合

●子世代●


2.片親にWSキャリア・発症ナシを使用した場合

●子世代●


3.片親にWSノンキャリア・発症ナシを使用した場合

●子世代●

上記の出現する子供のパターンから見てわかる通り

WSキャリアの個体を親にすることで、3パターン全ての個体が産まれます。

WSノンキャリアの個体を親にすることで、WSノンキャリアの個体のみが産まれます。


最も大きな問題は、WSの因子を持ちながら発症しない個体が存在することであり、外見からキャリア情報の確認を行うことは出来ない部分です。

その為、原文でも記述される通り幾代かの交配検証が必要となり、子世代の経過観察を行う中で親個体のキャリア情報を確定させる必要があります。

WSが独立した因子であることを裏付けるように、W&Yを含まずWSを発症した個体が存在しており、無作為な繁殖を行った場合この神経障害が蔓延する恐れがあることを示唆します。

Source1:WY Syndrome


[ESに対する試行]

エニグマシンドローム(ES)については、登場から長きに亘りエニグマからの切り離しを目指した試行と議論が繰り返されました。これは、エニグマの中で神経障害の症状を示さない個体が存在することに起因します。

現在では、エニグマとESは紐付いており、完全な切り離しは不可能であると結論付けられています。


ESはWSと異なり、同様に症状を現さない個体を用いた選別交配を行った場合でも、子世代でランダムに神経障害の個体が発生してしまいます。

一方で症状の度合いについては、ある程度の制御が可能であることも判明しており、ES症状が軽度であるエニグマを用いた交配が進められています。

エニグマを導入する上で、前提として理解しなければならないことは

「神経障害を完全に除去したエニグマの作出は不可能」

であり

「神経障害の度合いが下がるエニグマの作出」

が目的となり、同様に神経障害を抱えるW&Yとは方向性が異なるという点です。

Source1:当時のESの切り離しに向けた試行(リンク先で触れられる独立したESという遺伝子は存在しません)

Source2:ESはエニグマから切り離せないという記述(Enigmaの項)


[最後に]

異なる二つのシンドローム。

その特徴差や特性についてはご理解いただけましたでしょうか?

エニグマの神経障害について登場から15年近く経った現在では、多くの飼育者がその遺伝子と関連性があることを穏やかに理解しています。

しかしながら、登場当初は激しい論争が巻き起こっていたことがフォーラム等で確認出来ます。

これはレモンフロストやNDBEの登場時に巻き起こった論争と同じく、エニグマというモルフがあまりにも美しい表現を持つことに起因します。

更に言えば、これらのモルフを生み出し販売を行った業者は、問題に関しての説明を行わないままに販売を行った共通点があり、問題を知らないままに購入した飼育者の多くが混乱に陥りました。


W&Yの神経障害が除去できるということは明るい話題である一方、その神経障害のみを発生させるWSが独り歩きする可能性がある事実は、とても恐ろしく感じます。

私自身WSの除去を目指したブリードを行う中で、エニグマの在り方に疑問を持つようになり、取扱いを止めてしまいました。

「エニグマ」と「W&Y」この二つのモルフは確かに美しい表現を持ちますが、その表現だけを突き詰めるのではなく、その個体の健康面にも目を向ける必要があると考えます。