[はじめに]
本記事は上記の記事を親として、一部の内容を掘り下げて解説する為、2018年6月14日より執筆を始め更新を重ねてきました。
腫瘍問題の露見後、この問題を切り離す為の試行は世界中のブリーダーにより行われています。
本記事ではそれらの試行の結果から判明したレモンフロストの特性を紹介し、国内で試行するブリーダーの今後の方向性に役立てることを目的とした記事でありました。
しかしながら、2020年3月31日に公開されたヴロツワフ環境生命科学大学獣医学部の論文や2021年1月27日に公開されたカリフォルニア大学ロサンゼルス校のプレプリント等、専門家による研究結果からは厳しい事実が示されています。
中でもヴロツワフ環境生命科学大学獣医学部の論文では、以下のような文言が掲載されています。
「虹色細胞腫とゲノムの間に考えられる関連性から、この病変の原因が完全に解明され、記述されるまでは、レモンフロストの更なる交配は推奨されない。」
という内容です。
レオパにおいて何らかの障害を抱えるモルフは決して少なくありませんが、アカデミックな観点から繁殖行為そのものを否定する意見が出たのは初めてのことです。
この論文が掲載されたのは、ネイチャー・リサーチ社によるScientific Reportsというオンラインの学術雑誌です。
このScientific Reportsは論文のインパクトではなく、科学的正当性のみを評価することを目的としています。
このような学術誌において、繁殖を否定する意見が掲載された以上、趣味としてこの種類を楽しむ程度の我々一飼育者が取り扱うべきベースモルフでは無いと考えます。
その為、この記事の目的も否定されます。
アカデミックな観点から繁殖が推奨されないという一つの結論が出た以上、当ブログではレモンフロストの繁殖を一切推奨しません。
これから紹介するブリーダーによる試行は、本モルフの黎明期に巻き起こった模索をデータとして残す為のものとなり、今後不必要に同じ道を辿る飼育者が生まれないことを本記事の目的とし、2021年8月20日をもって記事の更新を停止しています。
以上を踏まえた上で、お読みいただければ幸いです。
[ブリーダーへの聞き取り]
レモンフロストを繁殖する海外ブリーダーへの聞き取りを重ねる中で
1. こちらから「○○ではないですか?」と質問せず、相手から自然に得られた見解
2. 1.の内、「情報源を別として複数回得られた見解」を中心に紹介していきます
又、実際に聞き取りを行う中で、彼らが商業ベースのブリーダーである事から、提供された写真及び個人名の公表の許諾は得られなかった為、複数の見解のすり合わせという形で紹介させて頂くことをご了承ください。
●危険な交配例の発見
何度もしつこいようですが、レモンフロストにおける腫瘍の発生条件は解明されていません。
その為、現状全てのレモンフロストは腫瘍発生の可能性を抱えており、そもそも交配に用いること自体が危険な状態です。
その中でも、ブリーダーへの聞き取りから得られた、更に危険度が高い交配例を紹介します。
1. タンジェリンとの交配
Dominika Allen氏の腫瘍報告より出典
この見解は、腫瘍問題の露見直後より多くのブリーダーから得ることが出来ました。
意見を総括すると、タンジェリンに限定された話ではなく「何らかの形で、ノーマルの個体と比較して白や黄色が強く表現される個体」に対し、レモンフロストを組み合わせる事で腫瘍発生の確立を高めると考えられています。
実際にSteve Sykes氏の手元で最初期に腫瘍を発生させた8匹のレモンフロストの全ては、ハイポタンジェリンとの交配から生まれており、その他でも数多くの症例が確認出来ます。
2. レモンフロストとしての特徴を強く引き出す交配
Henry Breitmeier氏による腫瘍報告より出典
この見解は、腫瘍問題露見直後より多くのブリーダーから得ることが出来ました。
最初期に公開されたレモンフロストのような
・ベタ塗りしたような白地
・真っ白な虹彩
と言ったこのモルフの魅力の根幹にはデメリットがあり「特徴が出ている = 虹色細胞の量が多い」と推察出来ます。
レモンフロスト独自の発色(虹色細胞)が強ければ強いほど、腫瘍発生の確立を高めると考えられています。
逆説的に、この虹色細胞の量が少ないレモンフロストを選別交配することが、安全な交配パターンの模索であるとも考えられますが、この交配はJohn Scarbrough氏も提言する通り
「特徴である虹色細胞の量を可能な限り減らした結果、それはレモンフロストなのか?」
という問題を抱えます。
3. ホモ接合体(スーパーレモンフロスト)の作出
BMT Reptile Groupによる腫瘍報告より出典
この見解は、腫瘍問題露見直後に作出元であるTGRからも警鐘が鳴らされ、幾人かのブリーダーによる試行も全て失敗に終わっていることが確認出来ます。
現在、スーパーレモンフロストは最も危険な交配パターンとされており、問題は以下の通りです。
・異常な確立で腫瘍が発生する。
・全体の皮ふは分厚くなり、特に顔周りが顕著である。
・顔は短くなり、巨眼の個体が発生する。
当初から危険な交配であることは明らかにされており、試行したブリーダーは少ないです。継続的にスーパーレモンフロストの作出を行ったブリーダーの1人から
「多くはヤングサイズまでに腫瘍が発生し、死んでしまうケースも多く、完品のフルアダルトが作出出来ない。」
という衝撃的な回答も得ています。
前述の回答をしたブリーダーではありませんが、上の写真のスーパーレモンフロストを作出したBMT Reptile Groupは「この個体は盲目であるように振る舞い、鼻腔内は腫瘍により閉塞し、開口呼吸を行わないとまともに息が出来ないように見える。」という内容と共に、スーパーレモンフロストを作出した事に対する後悔と、繁殖の停止を求めています。
スーパーレモンフロストについては衝撃的な写真が多い為、閲覧される方の中に苦手な方もいらっしゃる事を配慮し、その他の写真は別記事にて掲載します。
Source1:BMT Reptile Groupによる腫瘍報告の原文
4. スーパーマックスノー+スーパーレモンフロストの亜致死の可能性
この見解は、3人のブリーダーより得ることが出来ました。
前述の通り、そもそもレモンフロストのホモ接合体であるスーパーレモンフロストそのものが危険であることは明白であり、この試行は推奨されません。
その上で得られた共通の体験談を紹介しますが
「スーパーマックスノースーパーレモンフロストのベビーと思われる個体が、ハッチから1週間以内で死んでしまった」
という内容でした。
外見的には腫瘍が確認出来なかったにも関わらず、孵化後間もなく死亡している点から、このコンボは亜致死遺伝である可能性があり、避けるべき交配例であると考えられます。
3個体とも全て既に死亡してしまっている為、それぞれ片方がホモ接合体である個体を紹介していきます。
マックスノー+スーパーレモンフロストの個体
マックスノーとレモンフロスト両方の表現をしています。
前述の通り、顔面の皮ふが分厚くなり若干歪んでいることが分かります。
スーパーマックスノー+レモンフロストの個体
レモンフロストの表現を殆ど残しません。
このコンボの個体は見かける機会が比較的多いですが、どの個体も体の一部分にレモンフロスト特有の発色を残すのみとなり、ほぼスーパーマックスノーの外見となります。
レモンフロストの表現がスーパーマックスノーの表現により完全に隠され、気づかない内にレモンフロストの繁殖を行ってしまう危険性があります。
●単純なモルフのコンボによる解決は不可能
Barry Gardner氏による腫瘍報告より出典
他のベースモルフとコンボさせ、レモンフロストの効果を薄れさせることで腫瘍発生を防ぐという考え方です。
この考えは、最初期からあまり多くのブリーダーに支持はされませんでしたが、目にする機会が多い為に注意喚起として紹介します。
現在までにレモンフロストとコンボをさせたベースモルフの中で エクリプス、エニグマ、GEM(TUG)スノー、トレンパーアルビノ、ブリザード、ベルアルビノ、W&Y、マックスノー、マーフィーパターンレス、レインウォーターアルビノ 上記のモルフで腫瘍を発生させた個体が報告されています。
その他のベースモルフとのコンボの結果は待たれますが、前述の通り主流の考え方では無い為にあまり試行は進んでいません。
この中でスノー系との交配については一定の効果があるようで、その内容については2.安全な交配例の模索にて取り扱っています。
この考え方を支持する者は「ある特定の組み合わせで腫瘍発生を確認していない。」と説明した上で販売に繋げる商業ブリーダーである場合が多く、これはエニグマの登場初期に見られた「神経障害の出にくい(出ない)血統のエニグマ」という販売文句と酷似しており、自身のレモンフロストをブランディングする行為に過ぎないとの警鐘が鳴らされています。
何度も述べている通り、腫瘍発生のメカニズムは明らかになっておらず、完全に腫瘍問題の危険性が無いレモンフロストは存在しません。
実際に、黒色色素を欠乏させ色を薄くするはずのアルビノですら、上の写真のように腫瘍報告はなされています。
[交配の方向性]
Geckos ETC.より出典
まず初めに、比較的腫瘍の発生確率が抑えられると、試行する多くのブリーダーが考える交配の方向性を説明します。
尚、前述の通り現在では、アカデミックな観点から本モルフの繁殖行為そのものが否定されます。腫瘍発生のメカニズムは解明されておらず、完全に安全な交配は存在しません。
1.色が薄くなるように交配を行う。
2.腫瘍が発生した個体は交配に使用しない。
3.目の大きさが正常な個体同士で交配を行う。
多くの海外ブリーダーの見解を集める中、重要視されていたのは上記の3点です。
これは最初期にSteve Sykes氏が提唱した、安全なレモンフロスト(腫瘍が出来難いという意味で、腫瘍が出ないという意味ではない)の交配パターンでもあります。
理由について、解説していきます。
・色が薄くなるように交配を行う
この見解は最も多くのブリーダーから得ることが出来ました。
意見を総括すると、タンジェリンに限定された話ではなく「何らかの形で、ノーマルの個体と比較して白や黄色が強く表現される個体」に対し、レモンフロストを組み合わせることで腫瘍発生の確立を高めると考えられています。
実際にSteve Sykes氏の手元で最初期に腫瘍を発生させた8匹のレモンフロストの全ては、ハイポタンジェリンとの交配から生まれており、その他でも数多くの症例が確認出来ます。
レモンフロスト最大の魅力であるはずの、固有のベタ塗りしたような発色を、どうして薄くしていくのか?
言葉だけでは中々わかりにくい部分もある為、図に例えながら解説を行います。
イメージとして、レオパには個体ごとに色のついたボールが入るコップが存在するとします。
このコップの中に、オレンジのボールが入ったり、黄色のボールが入ったり、黒のボールが入ることでレオパの表現が変わっていきます。
通常、このコップに入りきらない分のボールはこぼれ落ちます。
ですが、レモンフロストが持つ固有のボール(虹色細胞)は特殊な性質を持ち、コップに入りきらない場合も無理やり上に乗るような状態となります。
「無理やりコップに乗った分のボールが悪影響を与え、腫瘍化につながる」
このイメージを理解して頂くと
「ベタ塗りが美しいはずのレモンフロストを敢えて色が薄くなるように交配を進めるブリーダー」
の考え方が捉えやすくなります。
又、このコップの大きさには個体差があり、ボールの許容限界量も異なると考えられ、同程度の表現の個体であっても腫瘍が発生する個体としない個体がいると理解出来るようになります。
この図解は、あくまでもブリーダーによる見解を理解する為の物であり、科学的な根拠は何もありません。
前述した論文では、本モルフにおける試行には科学的な見地が不足している事が記述されています。真に腫瘍発生のメカニズムを理解するには、ゲノム解析により病変箇所を明らかにする等の科学的な根拠に基づいたアプローチが必要になります。
1.ワイルドラインとの交配による模索
Geckos ETC.の投稿より出典
Steve Sykes氏を発端とし、多くのブリーダーが試行した交配パターンです。
上の写真の個体はWild Caught Bloodlineと呼称される、モルフや傾向を持たないレオパードゲッコーのノーマル個体です。
この交配には色を薄めること以外に、近親交配により引き起こされたとされる眼球の肥大化や顔が短くなる等の形成異常の解決を目的としています。
実際に、血統的に縁の無い個体群と交配が進められる中で、形成異常については大きく改善がなされました。
しかし、残念ながら最たる目的であった腫瘍発生の切り離しは出来ておりません。
現時点において、腫瘍の発生をある程度抑制出来ていると考えられますが、この腫瘍問題のメカニズムは明らかになっておらず、終生に亘り安全性が保たれているかは不明な段階にあります。
このメカニズムの解明については、商業的な試行からではなく、科学的な根拠に基づいて説明される必要があります。
2.マックスノーとの交配による模索
国内飼育者による写真協力
Steve Sykes氏を含め、多くのブリーダーが試行した交配パターンです。
上の写真はマックスノーレモンフロストのベビーです。最初期に発表された個体と比較すれば、明らかに色合いが落ち着いています。
上の写真は同個体の成長後です。背中にはレモンフロスト特有の発色が見受けられますが、頭部や脚部、尾には殆ど見受けられません。
この交配の目的は、マックスノーの色素を減退させる効果を用いて、体色を薄くすることにあります。
同様にマックスノーの白を際立たせる効果用いて、よりレモンフロストの特徴を顕著にしてしまう方向性を取った場合、タンジェリンやスーパーレモンフロスト同様に、高い確率で腫瘍を発生させると考えられています。
兼ねてより情報共有を重ねていた海外ブリーダーもまた、マックスノーによる交配を進めていました。
同氏が繁殖する個体群の一部で、同一血統の50匹以上のレモンフロストが腫瘍を発生させず、切り離しや発生率の抑制に繋がる可能性のある報告であったことからも、以前は私自身も期待を持って本項に詳細に記載しておりました。
しかし残念ながら、当該の血統においても腫瘍が発生し、報告の特異性は失われたと同時に、同氏よりレモンフロストの繁殖は今後行わないと連絡がありました為、それらの情報については削除しました。
3.この方向性に対する懸念点
ここまでの方向性を先ほどの図解にあてはめると「コップの中のボールの量を調節して解決を図る」という構図になります。
この考え方はすなわち「選別交配により腫瘍に対して耐性が高い個体を作出する」ということであり、当初に多くのブリーダーが掲げた「完全な腫瘍問題の切り離し」とは話が逸れています。
又、この考え方に対しては大きな疑問も投げかけられており
「コップへ生涯に亘り、レモンフロスト固有のボール(虹色細胞)が注がれ続けるようであれば、腫瘍の発生が遅れているだけではないのか?」
という内容です。
このような挙動をみせた場合、最初期にJohn Scarbrough氏が依頼した病理医による報告書の通り、成熟に伴って最大で95%のレモンフロストが腫瘍を発生させるという記述の通りになります。
念押ししますが、この方向性についての科学的な根拠は存在しません。この方向性で交配を行うことが安全であるという証明はなく、あくまでも商業的な試行による一つの見解です。
私達は常に冷静にこのモルフを見定める必要があり、その判断材料となり得る根拠は科学的な根拠に基づく必要があります。
[選別交配]
先ほどの図解内のコップの大きさのイメージから、よりコップが大きく、色素の許容量が多い個体を選別交配する必要があります。
本項では理解をしやすくする為、先ほどの図解から延長して解説します。
同程度の表現でありながら、コップが大きく色素許容量が多い個体(左)と、コップが小さく色素許容量が少ない個体(右)が存在すると仮定します。
わざわざ説明する必要もないと思いますが、右の腫瘍発生個体は親候補から除外します。
左の個体の子世代の挙動が上図の通りになります。
この子世代の中から腫瘍を発生した右の個体を親候補から除外し、左と中央の個体を残します。
ひたすらこれを繰り返すことが、レモンフロストに求められる選別交配の基本です。この際、腫瘍を発生させた個体の扱いをどうするのか?という倫理的な問題もつきまといます。
又、既に腫瘍を発生させたレモンフロストを親に残し交配を進める行為は、腫瘍の発生に対して抵抗が弱い個体を選別することに繋がりかねない狂気的な行為です。
前述した通り、既にレモンフロストにおける腫瘍問題の捉え方は変化しており、初期に提言された
「レモンフロストから腫瘍問題は独立しており、この因子は切り離すことが出来る」
という考えは失われ
「レモンフロストと腫瘍問題は紐付いており、選別交配により発生率を低減させる」
という考えに変化し、試行が繰り返される中で腫瘍問題の完全な切り離しについては、殆どのブリーダーが不可能であるとの見解を示しています。
又、幾度も繰り返すようで申し訳ありませんが、上記の見解はあくまで商業的な試行のとりまとめであり、科学的な根拠は欠如しています。
これらの試行は専門家からすれば検証と呼ぶには烏滸がましいものであり、アカデミックな観点からこれ以上の繁殖については否定されます。
[最後に]
最初期のスーパーマックスノーには、頭部の形成異常が存在していたことを皆様はご存じでしょうか?同様に、マーフィーパターンレスには尾先が変形する問題がありました。
新しいモルフが作出される歴史の中で、最初期の個体が問題を抱えていることは珍しい話ではありません。商業的な試行の段階で問題は解消され、殆どの人が忘れ去ったケースも存在します。
しかしながら、エニグマに付随する神経障害のように、問題の解決が不可能であると結論されたモルフも存在することは事実です。
このレモンフロストの腫瘍問題における議論は白熱し、ついにはレオパードゲッコーに存在する全てのモルフの中で初めて学術的な論文の発表まで行われました。
冒頭で紹介した通り
「虹色細胞腫とゲノムの間に考えられる関連性から、この病変の原因が完全に解明され、記述されるまでは、レモンフロストの更なる交配は推奨されない。」
という内容が記述され、繁殖を推奨しない結論がなされた以上は、このモルフは私達趣味人の手からは離れたものと考えます。
このアカデミックな観点からレモンフロストを捉えた論文に勝る検証は存在せず、相反する意見の全てはデータ化の行われていない経験談に過ぎません。
当該の論文と病理医達による報告書のみがレモンフロストを評価する為の根拠であり、多くの試行結果は、このモルフを肯定ありき、若しくは否定ありきの「憶測」であるということを十分に理解する必要があります。
この結論を一つの決着とし、以後本ブログではレモンフロストの繁殖について一切推奨しません。
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