推奨されない交配例 2021年版

W&Y Tremper Albinoの個体

レオパードゲッコーを飼育・繁殖する上で、もはや必須知識となってきた 

「ベースモルフの名前と特徴」 

次々と新しいベースモルフが登場する中で、問題のある交配パターンも明らかになってきました。

今回はそんな数あるベースモルフの、推奨されない交配例を紹介していきます。

尚、ベースモルフについての解説は、以下で行っています。


[はじめに]

以下に記載する内容は、メンデルの法則についてある程度理解している事を前提としています。

問題のある交配例が明らかとなっている以上、実際の繁殖を行う前にメンデルの法則を理解する事は、繁殖を志す飼育者にとって最低限度の義務であると考えます。

しかしながら、本記事の目的は飼育者が意図せず不幸な個体を生み出さない様にする事である為、各項目の本文をお読みいただければ、推奨されない交配例が理解出来るような構成となっています。


尚、記事内での表現規則は以下の通りです。

  • パネットの方形を用いて、交配を図解します。
  • 顕性(優性)遺伝するベースモルフを、大文字のアルファベットで記載します。
  • 潜性(劣性)遺伝するベースモルフを、小文字のアルファベットで記載します。
  • それぞれに対応する野生型(=ノーマル)を、+と記載します。

[健康面に問題を引き起こす交配例]

本項では、レオパードゲッコーの健康に問題を引き起こす交配例を紹介します。

その為以下の交配例は、当ブログとしては完全に推奨しません。

1. エニグマ(E/+) × エニグマ(E/+)

交配結果は上図の通りとなり、赤く色付けされた個体に問題が発生します。

① 1/4の確立で生まれるE/E[エニグマ:ホモ接合体(2copy)]について

エニグマのホモ接合体(2copy)は、致死遺伝及び神経障害(ES)の問題を抱えます。

亜致死遺伝であり体の形成は進みますが、殆どは正常に孵化しません。

殆どの個体は卵の中で死亡(死籠り)し、孵化した僅かな個体は奇形・虚弱等の問題を引き起こします。

上記の交配例に限らず、エニグマの意図的な作出は推奨されません。


② 2/4の確立で生まれるE/+[エニグマ:ヘテロ接合体(1copy)]について

エニグマのヘテロ接合体(1copy)は、神経障害(ES)の問題を抱えます。

上記の交配例に限らず、エニグマの意図的な作出は推奨されません。

又、ホモ接合体とも共通する神経障害の詳細については、以下記事にて解説を行っています。

③ 1/4の確立で生まれる+/+[ノーマル]について

ノーマルである為、問題は存在しません。



2. W&Y(W/+) × W&Y(W/+)

交配結果は上図の通りとなり、赤く色付けされた個体に問題が発生します。

① 1/4の確立で生まれるW/W[W&Y:ホモ接合体(2copy)]について

W&Y(ホワイト&イエロー)のホモ接合体(2copy)は、致死遺伝の問題を抱えます。

亜致死遺伝であり体の形成は進みますが、多くは正常に孵化しません。

多くの個体は卵の中で死亡(死籠り)し、無事に孵化した場合にも奇形・虚弱等の問題が無視出来ない程度の確率で発生します。

上記の交配例に限らず、W&Y(ホワイト&イエロー)のホモ接合体(2copy)の意図的な作出は推奨されません。

尚、W&Yに紐づいた問題ではありませんが、神経障害を引き起こすW&Yシンドロームという独立した遺伝子(WS)が蔓延しています。

繁殖に用いる際は、WSを含まない個体を親とする必要があります。


② 2/4の確立で生まれるW/+[W&Y:ヘテロ接合体(1copy)]について

W&Y(ホワイト&イエロー)のヘテロ接合体(1copy)に、問題は存在しません。

尚、W&Yに紐づいた問題ではありませんが、神経障害を引き起こすW&Yシンドロームという独立した遺伝子(WS)が蔓延しています。

繁殖に用いる際は、WSを含まない個体を親とする必要があります。

又、ホモ接合体とも共通する神経障害の詳細については、以下記事にて解説を行っています。

③ 1/4の確立で生まれる+/+[ノーマル]について

ノーマルである為、問題は存在しません。



3. レモンフロスト(L/+) × ノーマル(+/+)

※注意※

レモンフロストは現在、致死性の腫瘍を発生させる問題を抱えます。

この問題について2020年3月31日にヴロツワフ環境生命科学大学獣医学部より論文が発表されております。

腫瘍問題が科学的なアプローチにより解決する日まで、趣味の範囲でブリードを行う事は推奨されない事が論文内で記述されています。

※注意※

交配結果は上図の通りとなり、赤く色付けされた個体に問題が発生します。

① 2/4の確立で生まれるL/+[レモンフロスト:ヘテロ接合体(1copy)]について

レモンフロストのヘテロ接合体(1copy)は、致死性のある腫瘍問題を抱えます。

この問題により皮ふ上に腫瘍を形成し、内臓にも腫瘍が発生します。

上記の交配例に限らず、レモンフロストの意図的な作出は推奨されません。

致死性のある腫瘍問題の詳細については、以下記事にて解説を行っています。

② 2/4の確立で生まれる+/+[ノーマル]について

ノーマルである為、問題は存在しません。



4. レモンフロスト(L/+) × レモンフロスト(L/+)

※注意※

レモンフロストは現在、致死性の腫瘍を発生させる問題を抱えます。

この問題について2020年3月31日にヴロツワフ環境生命科学大学獣医学部より論文が発表されております。

腫瘍問題が科学的なアプローチにより解決する日まで、趣味の範囲でブリードを行う事は推奨されない事が論文内で記述されています。

※注意※

交配結果は上図の通りとなり、赤く色付けされた個体に問題が発生します。

① 1/4の確立で生まれるL/L[レモンフロスト:ホモ接合体(2copy)]について

レモンフロストのホモ接合体(2copy)はスーパーレモンフロストと呼称され、致死性のある腫瘍問題を抱えます。

この問題により全身の皮ふは分厚くなり、内臓に腫瘍が発生します。

その為、フルアダルトサイズになる前に死亡する個体が多く存在します。

上記の交配例に限らず、レモンフロストの意図的な作出は推奨されません。


② 2/4の確立で生まれるL/+[レモンフロスト:ヘテロ接合体(1copy)]について

レモンフロストのヘテロ接合体(1copy)は、致死性のある腫瘍問題を抱えます。

この問題により皮ふ上に腫瘍を形成し、内臓にも腫瘍が発生します。

上記の交配例に限らず、レモンフロストの意図的な作出は推奨されません。

又、ホモ接合体とも共通する致死性のある腫瘍問題の詳細については、以下記事にて解説を行っています。

③ 1/4の確立で生まれる+/+[ノーマル]について

ノーマルである為、問題は存在しません。



5. NDBE(n/n) × Het NDBE(n/+) 

交配結果は上図の通りとなり、赤く色付けされた個体に問題が発生します。

① 2/4の確立で生まれるn/n[NDBE:ホモ接合体(2copy)]について

NDBEのホモ接合体(2copy)は、眼球の形成異常及びメスが不妊となる問題を抱えます。

場合により、完全に視力を失った個体も確認されます。

上記の交配例に限らず、NDBEのホモ接合体(2copy)の意図的な作出は推奨されません。

又、眼球の形成異常及びメスが不妊となる問題については、以下記事にて解説を行っています。

② 2/4の確立で生まれるn/+[Het NDBE:ヘテロ接合体(1copy)]について

NDBEのヘテロ接合体(1copy)に、問題は存在しません。



6. マックスノー レモンフロスト(MS/+ L/+) × マックスノーレモンフロスト(MS/+ L/+)

※注意※

レモンフロストは現在、致死性の腫瘍を発生させる問題を抱えます。

この問題について2020年3月31日にヴロツワフ環境生命科学大学獣医学部より論文が発表されております。

腫瘍問題が科学的なアプローチにより解決する日まで、趣味の範囲でブリードを行う事は推奨されない事が論文内で記述されています。

※注意※

交配結果は上図の通りとなり、赤く色付けされた個体に問題が発生します。

① 1/16の確立で生まれるMS/MS L/L[マックスノー及びレモンフロスト:ホモ接合体(2copy)]について

マックスノー及びレモンフロスト:ホモ接合体(2copy)はスーパーマックスノースーパーレモンフロストと呼称され、致死遺伝の問題を抱えます。

亜致死遺伝となり、孵化した個体はいずれも一週間程度で死亡します。

上記の交配例に限らず、スーパーマックスノースーパーレモンフロストの意図的な作出は推奨されません。

※ その他の赤く色付けされた個体の問題については、3.及び4.で解説済みの為割愛します。


以上、健康面に問題を引き起こす交配例について


[モルフ判別が困難になる交配例]

本項では、レオパードゲッコーのモルフ判別を困難にする交配例を紹介します。

その為以下の交配例は、当ブログとしては準非推奨です。

ⅰ. エニグマ(E/+) × W&Y(W/+)

エニグマとW&Yは表現の近いベースモルフであり、交配した際に判別困難な個体が産まれます。

その為、この二つを組み合わせる事は、判別上の理由から推奨されません。

交配結果は上図の通りとなります。

赤く色付けされた個体が、推奨されない組み合わせとなります。

黄色く色付けされた個体は本来判別上の問題はありませんが、この交配においては判別が困難になります。


尚、エニグマとW&Yを組み合わせた事による固有の表現は確認されておらず、完全に意味の無い交配例と言えます。

その為、上記の交配例に限らず、エニグマとW&Yの意図的な交配は推奨されません。

エニグマ及びW&Yが抱える問題については前述の通りであり、本項では割愛します。



ⅱ. マックスノー(Mc/+) × GEMスノー(G/+)

マックスノーとGEMスノーは表現の近いベースモルフであり、交配した際に判別困難な個体が産まれます。

その為、この二つを組み合わせる事は、判別上の理由から推奨されません。

交配結果は上図の通りとなります。

赤く色付けされた個体が、推奨されない組み合わせとなります。
黄色く色付けされた個体は本来判別上の問題はありませんが、この交配においては判別が困難になります。
尚、これまでの検証結果から、マックスノーとGEMスノーは複対立遺伝の関係にあると考えられています。

つまり、1つの遺伝子座に対して3種類の対立遺伝子がある状態にあります。

1. +   : 野生型
2. Mc: マックスノー
3. G  : GEMスノー

複対立遺伝についての解説は本項の主題では無い為、簡略的に説明します。

通常、1つの遺伝子座に置く事が出来る対立遺伝子は2つです。

その為、図からも分かる通り、Mc/G/+といった3つの対立遺伝子を1つずつ含んだ個体は誕生しません。

① 1/4の確立で生まれるMc/G[マックスノー及びGEMスノー:ヘテロ接合体(1copy)]について。

Mc/GはMc/Mc(=スーパーマックスノー)と同一の表現となる事が知られています。

この内、TUGスノーとリネームされたGEMスノーを用いて得られたMc/Gについては、スノーストームという呼称が与えられます。

非常にややこしい話ではありますが、一つのベースモルフに対して2つの呼称が与えられている事が、この混乱を呼んでいます。

スノーストームという呼称の定義上、TUGスノーとリネームされたGEMスノーを用いてマックスノーとの間に得られるMc/Gをスノーストームと呼称します。

一方、GEMスノーとマックスノーの間に得られるMc/Gについては、特定の呼称が存在しません。

両者に遺伝的な情報の差異は全く存在しませんが、親個体の表記により呼称の差異が存在します。


いずれにせよ、マックスノーとGEMスノーを組み合わせた事による固有の表現は確認されておらず、完全に意味の無い交配例と言えます。

その為、上記の交配例に限らずマックスノーとGEMスノーの意図的な交配は推奨されません。



ⅲ. 異なるアルビノ同士の交配

トレンパーアルビノとベルアルビノ、レインウォーターアルビノは表現の近いベースモルフであり、交配した際に判別困難な個体が産まれます。

その為、これらを組み合わせる事は、判別上の理由から推奨されません。

トレンパーアルビノ(t/t)とベルアルビノ(b/b)を例として、交配結果が上図の通りとなります。

本種のアルビノはいずれも潜性遺伝の形質を持つ為、純粋な個体である限り交配の一世代目は必ずノーマル表現となります。

赤く色付けした通り、全ての個体が異なるアルビノの遺伝子を持つ状態(=ダブルヘテロ)であり、推奨されない組み合わせとなります。

先ほどの一世代目同士の交配結果が、上図の通りとなります。

赤く色付けされた個体が、異なるアルビノを二つ含んだ、推奨されない組み合わせとなります。

黄色く色付けされた個体は本来判別上の問題はありませんが、この交配においては判別が困難になります。

各アルビノはある程度表現が異なりますが、どのアルビノも近い表現をする場合があり、外見的特徴のみから判別する事は危険です。

一度混ざり合った潜性遺伝のベースモルフは、完全な分離が非常に困難であり、数年がかりの検証交配が必要となります。

尚、異なるアルビノを組み合わせた事による固有の表現は確認されておらず、完全に意味の無い交配例と言えます。

その為、上記の交配例に限らず、異なるアルビノ同士の意図的な交配は推奨されません。



ⅳ. 異なる目の変異(Eye mutation)同士の交配

エクリプスとマーブルアイ、サイファー、NDBE、B.A.Eは表現の近いベースモルフであり、交配した際に判別困難な個体が産まれます。

その為、これらを組み合わせる事は、判別上の理由から推奨されません。

エクリプス(ec/ec)とマーブルアイ(m/m)を例として、交配結果が上図の通りとなります。

上記のベースモルフはいずれも潜性遺伝の形質を持つ為、純粋な個体である限り交配の一世代目は必ずノーマル表現となります。

赤く色付けした通り、全ての個体が異なるEye mutationを持つ状態(=ダブルヘテロ)であり、推奨されない組み合わせとなります。

先ほどの一世代目同士の交配結果が、上図の通りとなります。

赤く色付けされた個体が、異なるEye mutationを二つ含んだ、推奨されない組み合わせとなります。

黄色く色付けされた個体は本来判別上の問題はありませんが、この交配においては判別が困難になります。

各Eye mutationはある程度表現が異なりますが、どのEye mutationも近い表現をする場合があり、外見的特徴のみから判別する事は危険です。

一度混ざり合った潜性遺伝のベースモルフは、完全な分離が非常に困難であり、数年がかりの検証交配が必要となります。

尚、異なるEye mutationを組み合わせた事による固有の表現は確認されておらず、完全に意味の無い交配例と言えます。

その為、上記の交配例に限らず、異なるEye mutation同士の意図的な交配は推奨されません。


以上、健康面に問題を引き起こす交配例について


[最後に]

W&Y Tremper Albinoの個体

どうも、とっとこです。

本記事は2018年に公開以降、繁殖シーズンの前後に極端にアクセス数が増えていました。

当初は書ききりにする予定の記事でありましたが、昨今のベースモルフ発展の速度も踏まえ、ある程度情報の更新が必要であると考え、2021年版として内容を大きく変更しています。


極論、私たちの趣味は
「動物の背中にどんな絵を描くか?」
という、業の深い側面を持ちます。
その業をきちんと背負うという意味でも、自分がこれから繁殖を行おうとしている生き物について調べ、学ぶ事は最低限度の義務だと考えます。

ですが、そうした正論や理想論とは別に、本種のブリードは各地で行われています。
「趣味だからこそ、しっかり取り組まないとつまらない。」
一方で
「趣味だからこそ、しっかり取り組むとつまらない。」

という事が真理なのでしょう。


学ぶ事を高尚なものとして、学ばない事を低俗なものとすれば、両者の溝は深まるばかりです。
知る者なのであれば、見下すのではなく手を差し伸べる努力を。
知らぬ者なのであれば、意固地になるのではなく手を握る努力を。
下らないマウント合戦の果てに、代償を払うのは人間ではなく、貴方の目の前にいる大切なレオパードゲッコーです。


とっとこのレオパ覚え書き